まぐ太の金融と経営の扉

金融や経営に関することを書いていきます

基本の財務分析

最近はコロナウイルスの第7波が到来したとも言われ、コロナによる経済への打撃は大きく、いまだ影響を計り知ることは難しいと思えます。中小零細企業では、コロナウイルスによる無利息型融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」を利用して資金繰りを回している企業も多くあると思います。すでに返済が開始となっている企業、これから返済開始となる企業など、経済情勢が不安定なかで経営の舵取りを行わなくてはなりません。場合によっては、金融機関と交渉が必要になることも出てくるかもしれません。

今回は決算書における財務3表(貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書)を用いた分析について書いていきます。

 

財務は単なる数字と思わずに、経営の一つの指針とすることで、企業経営が好転する可能性も多く秘めていると私は思います。融資審査において金融機関が決算書のどこに着目しているのか、についても散りばめながら書いていきます。

 

財務分析とは財務諸表のデータから、企業の経営成績や財務状態を測ることです。企業の収益性・生産性・安全性・成長性などを知ることができる他、企業がどのような業務で利益や損失を出しているのか、支払能力や倒産リスク、今後の成長性などが見えてきます。

企業のみならず、その企業の業界情報などから事業環境(マクロ面)や業界企業の現状(ミクロ面)といった必要な情報を集めることも大切です。

財務分析の方法

財務諸表の分析には「実数分析」と「比率分析」という2種類の分析方法があります。

  • 実数分析…財務諸表に記載されている数値をそのまま用いて分析する手法。売上高や販売数量の増減など、「量」に関する分析をするのに適している。
  • 比率分析…自己資本比率や経常利益率など、財務諸表の数値をもとに様々な比率を求めて行う分析手法。比率をもとに分析することで、事業の収益性や安全性など可視化できない要素を客観的に把握できる。

財務分析における着眼点や指標は複数ありますが、企業の財務をおおまかに把握するためには、「売上高」「経常利益率」「総資本」「自己資本比率」の4つについて、業界平均との比較をすると効果的です。「売上高」は企業の競争力、「経常利益率」は利益獲得力、「総資本」は企業体力、「自己資本比率」は安全性を示しています。

財務分析の概要

「異常な兆候」を探す

収益性や安全性、成長性といった、財務上の「主要比率」について「時系列分析」と「業界平均との比較分析」を行います。その中で「前期より大きく変動した項目」「業界平均と大きく乖離している項目」について、そうなった原因を分析します。

その原因が特殊要因ということであれば、正常な状態における数値へと修正し、改めて分析を行い、実態と本質的な問題を把握します。

注意点
  • 恒常的か、一時的かの見極め
  • 異常原因の分析と把握

異常な兆候を発見したら、それが「恒常的」なのか「一時的」なのかの見極めが重要となります。また、原因についても正確に捉える必要があります。

分析指標の選択

財務分析は、目的やニーズによって活用する指標や分析内容が異なることが多くあります。「企業を将来どのようにしたいのか」、「財務上の強みや弱みはどこなのか」など、必要とする目的に合った的確な分析や評価を行うことが重要になります。

決算内容についての理解

財務分析指標については、一概に「何%であれば良い」というものでもなく、企業の課題や強み・弱みを認識するのことが大切です。財務分析とは「過去の数値を用いたものであり、数値だけでは将来予測の精度に限界があることを忘れてはなりません。そのため財務分会計以外の要素や情報についても収集しておくことが大切です。

 

貸借対照表の分析

貸借対照表の分析については、まず「資産合計」を確認します。総資産は企業の財務的な規模を表しています。続いて「負債」と「純資産」のバランスによる健全性を確認します。

安全性の分析

安全性の分析とは、企業の支払い能力を表すもので、倒産リスクを確認できます。返済能力として金融機関からも注目度の高い項目です。「長期的安全性」は企業の持続力、「短期的安全性」は当面の資金繰りを表しています。

安全性に対する金融機関の視点

金融機関が重視するのは、安全性の指標であることが多いです。そのため「自己資本比率」「固定比率」「固定長期適合率」の3項目を業界平均レベルまで高めることが大切です。

自己資本比率

自己資本比率(%)=(自己資本÷総資本)×100

資本金や利益剰余金で構成されており、返済義務はありません。つまり返済不要の資金割合が高いことを意味しており、景気変動への抵抗力や競争力が強く、長期的な財務面の安定性が高いといえます。一般的には30%超が望ましいとされています。

固定比率

固定比率(%)=(固定資産÷自己資本)×100

固定資産が自己資本によってどの程度賄われているか、という固定資産に使用されている資金の安定度を測る指標です。「工場や機械設備といった固定資産を取得するために使用された資金の回収は、これら固定資産を活用し事業収益」によって行われます。そのため、固定資産の取得に使用される資金は、返済義務のない自己資本によって賄われるのが望ましいです。

この比率が低いほど、長期的な財務安全性が高いと言えます。一般的には200%を超えると危険水域と言われています。100%以内が理想であり、120%以内なら健全、とされますが、中小企業でこの水準をクリアするのはハードルが高いのが実情です。

固定長期適合率

固定長期適合率(%)=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100

固定資産へ投下した資金が「自己資本」と「長期借入金を中心とした固定負債」という長期的に安定した資金によってどれだけ賄われているかを見る指標です。

先ほど述べたように、固定費率の基準は中小企業の実態にはそぐわない為、この固定長期適合率を用いることが多いです。固定費率が100%を超えていても、固定長期適合率が100%以内であれば健全とされます。100%超となると、過大設備、過小資本、長期資金の調達不足を意味しており、資金の長期的安定性が必要となります。

借入債務にかかわる指標

債務償還年数

債務償還年数(年)=有利子負債÷営業利益。または、有利子負債÷営業キャッシュフロー

現状の有利子負債(短期借入金・長期借入金等)を何年間で返すことができるかをみるための指標です。

借入金対月商比率

借入金対月商比率(月)=有利子負債÷平均月商

有利子負債の多寡を平均月商との比較で検証し、企業の収益力や資産規模に比べ有利子負債の割合を見ていく指標です。

借入依存度

借入依存度(%)=(有利子負債÷総資本)×100

企業が保有する資産のうち、外部からの借入金によって賄われている部分の割合を示す指標です。この比率が高いと、借入金の返済による資金繰り負担や、金利上昇の影響を受けやすいと言えます。

有利子負債比率

有利子負債比率(%)=(有利子負債÷株主資本)×100

総資本利益率の低さに対し、有利子負債が急増する場合などは、支払利息負担が重くなり、事業リスクが増大するため、警戒が必要になります。

企業の長期的安全性と事業戦略

企業が安定した経営体質を確立するためには、安全性の指標向上が重要ですが、その具体的方法・方策については、企業の長期的な事業戦略を考慮したうえで対策を立てることが肝要です。

例えば、積極的な事業展開を長期戦略としている企業は、増資などにより純資産を増強したりします。逆に衰退期にある企業は投資を抑制し、余剰資産の削減等による固定資産と債務の圧縮をはかることが必要になります。このように事業の長期的見通しと戦略を考慮し、慎重な検討を行うことが大切です。

流動比率

流動比率(%)=(流動資産÷流動負債)×100

流動比率」は短期的な支払能力を分析する際における指標の一つです。短期的債務である流動負債を返済する力がどれだけあるか、運転資金のゆとりを示す代表的な指標です。この比率が高ければ、負債を返す力が大きいということになり、当面の支払能力に問題はないと判断できます。

流動比率は一般的に120%から140%程度あることが望ましいとされています。この比率が100%を下回ると短期的な支払が苦しくなり、安全性が懸念される事態であると考えられます。同業他社の数値と比較分析をし100%を下回る状況が続くようであれば、「増資による自己資本の増強」や「短期借入金の長期借入金への借換」などを検討する必要があります。

当座比率

当座比率(%)=(当座資産÷流動負債)×100

当座資産は流動負債を返済する財源として、当座資産を使用し計算した場合の即時返済能力を表す指標です。

当座資産とは比較的短期間のうちに容易に現金化できる流動資産で、現預金・受取手形売掛金・市場性のある有価証券などが含まれます。その為、当座比率流動比率と比べ、より現金に近い指標となり、100%を上回っていれば支払能力が高く、80%が望ましいとされています。

 

運転資金の分析

正味運転資金

「正味運転資金」とは流動資産から流動負債を差し引いたものです。正味運転資金が潤沢にあれば、一般的に資金繰りは余裕があると言えます。

経常運転資金(正味営業運転資金)

経常運転資金(正味営業運転資金)=売上債権+棚卸資産仕入債務

「経常運転資金」とは、企業が正常な営業を継続するために必要な資金を表しています。この金額は業種や各企業の状況によっても異なります。

 

売上債権・棚卸資産の指標

過大な棚卸資産や回収困難な債権は、利益に大きな影響を及ぼすだけでなく、劣化や陳腐化リスクの高止まりによって、貸借対照表を実態面から悪化させる危険があります。このため棚卸資産保有量が適当か否かを検討することは重要なポイントになります。

棚卸資産に関わる指標

事業の評価や戦略の検討にあたっては、在庫管理に関わる分析が極めて重要になります。

棚卸資産回転期間

棚卸資産回転期間(月)=棚卸資産÷(売上原価÷12)

保有している棚卸資産が、売上原価の何ヶ月分かを示す指標です。短いほど良く回転していることを表しています。

棚卸資産構成比率

棚卸資産構成比率(%)=(棚卸資産÷総資産)×100

総資産のうちに棚卸資産がしめる割合を表しています。

在庫の合理化は「店舗の商品管理レベル」と「品切れによる機会損失」を十分に考慮し具体的な方策を決定することが大切です。

債権・債務にかかわる指標

売上債権回転期間

売上債権回転期間(月)=売上債権÷平均月商

売上債権が平均で何ヶ月で回収されているかを表しています。長い場合は、不良債権の発生や回収条件の妥当性を検証する必要があります。

仕入債務回転期間

仕入債務回転期間(月)=仕入債務÷平均月商

仕入代金の支払状況を表す指標です。長いほど支払いは楽になりますが、デメリットとしては一般的に仕入価格が不利になる傾向があるため、同業平均との比較や時系列分析によって妥当性を判断します。

 

損益計算書の分析

一般的な着眼点

売上総利益

売上総利益率(%)=(売上総利益÷売上高)×100

売上総利益率が変動している場合、原価の内訳を費用ごとに分析します。

販売管理費

人件費の多寡や多額の経費項目の妥当性及び合理化の可能性を検証します。

製造原価中の労務費等の固定費推移

売上高の変動に対し、弾力的な対応ができているかを検証します。特に売上減少局面においては固定費が主要なコストアップ要因となり損失発生の原因となるケースもあります。

材料費比率

材料費比率(%)=(材料費÷売上高)×100

時系列分析・同業比較分析を行い、コストアップや歩留まり悪化の可能性を検証します。

外注費比率

外注費比率(%)=(外注費÷売上高)×100

時系列分析・同業比較分析を行い、大きく変動している場合には、内容と原因を確認し、内製化の可否、妥当性の検証を行います。

収益比率による分析

総資本経常利益率

総資本経常利益率(%)=(経常利益÷総資本)×100

収益性を表す代表的な指標です。高いほど良いとされています。

総資本回転率

総資本回転率(回)=売上高÷総資本

「総資本が何回転したか」によって資産の活用状況を表しています。低い場合には不良資産や有休資産の有無、資産内容を確認します。

営業利益率

営業利益率(%)=(営業利益÷売上高)×100

通常の営業により獲得した営業利益の売上高に対する割合を表しています。

経常利益率

経常利益率(%)=(経常利益÷売上高)×100

経常的な企業活動の収益力を表す指標です。

営業費比率

営業費比率(%)=(販売費及び一般管理費÷売上高)×100

売上総利益率の70%が望ましいとされていますが、業種により異なるため、中身を個々に検証する必要があります。

従業員一人当たり売上高

従業員一人当たり売上高=売上高÷従業員数

労働生産性を表す代表的な指標です。

従業員一人当たり人件費

従業員一人当たり人件費=総人件費÷従業員数

人件費の水準の妥当性を調べるため、時系列分析・同業比較分析を行います。

労働分配率

労働分配率(%)=(人件費÷加工高)×100

加工高=生産高-外部購入価格(材料費、外注費など)

加工高に占める人件費の割合です。高くなると利益を圧迫することになります。

成長性の検証

売上高が、時系列分析において増加していたり、同業比較分析を行い多いということは、それだけ企業の競争力が高いことを表します。

成長性とは売上の増加、利益の増加、資本の増加など、様々な考え方があります。また成長性には中身の確認が欠かせません。一時的なのか恒常的なのかを調べる必要があります。

設備投資の考え方

設備投資と経済情勢

「過ぎた設備投資は命取りになる」と言われますが、生産能力の増大を狙った「拡張投資」を行うケースについては、設備投資後の一定期間において売上などが伸びていなければなりません。設備投資をしても受注や売上が伸びていかないと、その設備投資に伴う費用が重くのしかかり、事業継続上の課題となる場合もあります。

設備投資を財務面から考えると、設備投資を行うと固定費(減価償却費、労務費、支払利息等)が増加し、損益分岐点が上昇します。そのため売上高が一定以上に増加しなければ、損益面・資金面でも厳しい状況になってしまいます。

設備投資の適正化を測る指標
  • 有形固定資産構成比率

総資産の中に占める有形固定資産の割合を示すものです。この割合が高い場合、好況で生産量が増加している時期は大きな優位性を生み出しますが、不況期においては重荷となります。同業他社と比較分析を行い、大きく乖離しているようであれば、稼働状況を検証する必要があります。 

有形固定資産構成比率(%)=(有形固定資産÷総資産)×100

  • 有形固定資産回転率

有形固定資産の活用状況を示します。有形固定資産がどれだけ売上を獲得する力があるのかを判断できます。

有形固定資産構成比率が高くても、この有形固定資産回転率が業界平均以上であれば問題はないと言われています。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

インタレスト・カバレッジ・レシオ

「インタレスト・カバレッジ・レシオ」とは、営業利益と金融収益(受取利息・配当金など)が、支払利息をどの程度上回っているかを示し、企業の財務体質の健全性を評価する要素の1つです。この比率は企業の金利負担能力を図る指標として用いられ、高いほど財務的に余裕があることになります。

ただし、成長過程の企業においては、借入金をしてでも事業拡大をすることが必要なことがあるため、この比率の妥当性については、事業のライフサイクルを考慮することが重要です。

インタレスト・カバレッジ・レシオの評価

インタレスト・カバレッジ・レシオが1倍を下回ると、事業収益から借入金等の利息を支払う力が無いことになるため、早急に改善策を講じる必要があります。

インタレスト・カバレッジ・レシオの改善策

事業利益の増加、金融費用の削減がポイントになります。

事業利益増加には、利益率の改善や人件費や経費の圧縮、効率化を図ります。

金融費用の削減は、借入金の圧縮、回し手形等による割引料の減少などが検討材料になります。

 

キャッシュフロー分析

かつての金融機関の与信審査では「損益計算書による利益」と「担保などの保全状況」が大きなウエイトを占めていました。しかし近年ではキャッシュフローの重要性が増してきています。企業にとっても、キャッシュフローの創造力は事業存続の成否の重要な要素となります。

ここではキャッシュフローを使った分析指標をあげていきます。

収益性の指標

キャッシュフローマージン

キャッシュフローマージン(%)=営業キャッシュフロー÷売上高×100

本来の営業活動により、どれだけの営業キャッシュフローを稼ぎ出したかを表す指標です。時系列分析によりその推移と水準を分析します。

利益割合

利益割合(%)=当期純利益÷(当期純利益+減価償却費)×100

「営業活動によるキャッシュフロー」の主要要素である当期純利益減価償却費の割合を見る指標です。これにより企業の「営業活動によるキャッシュフロー」の特徴を分析します。

一般的に当期純利益の割合が大きい場合、キャッシュフローが不安定になりますが、成長性は高いと考えられます。逆に減価償却費の割合が大きい場合には、安定性が高いと考えられます。

安全性比率

キャッシュフロー当座比率

キャッシュフロー当座比率(%)=営業キャッシュフロー÷流動負債×100

当座比率キャッシュフロー版とも言え、短期的な返済能力を表しています。当座比率では決算時の一時的な残高を表しているにすぎないため、貸借対照表から算出される当座比率と、キャッシュフロー当座比率を組み合わせて実態を検証することが大切です。

キャッシュフロー比率

キャッシュフロー比率(%)=営業キャッシュフロー÷長期負債×100

有利子負債のうち、元本返済が必要となる長期負債に対して、営業キャッシュフローでどの程度賄えているかを見る指標です。インタレスト・カバレッジ・レシオと組み合わせて検証すると効果的です。

 

ここまで財務分析のやり方や着目点などについて書いて参りました。

今まで財務分析をしたことがなければ、自社の財務と照らし合わせながら、今後の経営方針や戦略を練ることで、違った発見やアイデアが出てくるかもしれません。

なにか少しでもご参考になれば幸いです。

財務3表の基礎知識

財務3表とは一般的に、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」を表しています。決算分析において広く活用されています。

今回は財務3表の概要と基礎的な部分をお伝えできればと思います。

財務3表の意義

決算書は簿記という一定のルール基づいて起票された伝票や帳簿に基づいて作成されます。

簿記では取引が「 資産、負債、純資産、収益、費用」の5つの要素に分けられます。

資産とは現金・受取手形売掛金・有価証券・不動産など、負債とは支払手形・買掛金・借入金など、純資産は資本金や繰越利益剰余金など、収益は売上高や受取利息など、費用は売上原価・給与・支払利息などをいいます。

資産・負債・純資産を表すものが、貸借対照表であり、収益・費用を表すものが損益計算書になります。

金融機関だけではなく、企業の内外には多くの利害関係者が存在し、企業の実態を知るために決算書を必要としています。決算書には様々な目的がありますが、中小企業に必要とされる決算書は、主に貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書の3つであり、これを財務3表と呼ばれています。この3つを理解することで、より深く会社や事業を把握することができるようになります。

財務分析の必要性と財務3表の相互関係

財務分析とは、決算書を見て企業の実情や現状の問題点を把握することです。そうすることで改善点を今後の経営に活かすことが出来ます。

損益計算書は決算期間1年の経営成果を表しており、「前記の貸借対照表」と「当期の貸借対照表」をつなぐ役割を果たしています。貸借対照表の左右が一致することから、例えば純資産の増加は、貸借対照表上の「左側の資産の増加」または、「右側の負債の減少」によってバランスします。資産及び負債がどのように変化したのかを確認し、その影響を分析すると効果的です。

財務3表により、企業の資産状況や営業活動が数値的に表現され、他の会社との比較分析が可能となります。

 

貸借対照表

概要

貸借対照表は、決算日における資産・負債・純資産の内容、つまり「企業の財政状態」を表したものです。

貸借対照表の構成は、左側に「資産の部」、右側に「負債の部」「純資産の部」となっています。右側が資金の調達方法、左側が資金の使途を表しています。調達した資金と使った資金は同額であるため、資産の部と負債の部・純資産の部、左右の合計金額は必ず一致します。

資金調達の部分を、負債の部と純資産の部に分けているには理由があります。負債の部が、金融機関など株主以外から調達した内訳を表しているのに対し、純資産の部は、株主からの出資や利益の留保額を表しています。このように調達原資の明確にするために分かれています。

貸借対照表の配列

資産の部は流動資産と固定資産、負債の部は流動負債と固定負債に分けられます。

資産と負債を「流動」、「固定」に区分する基準には、営業循環基準と1年基準(ワン・イヤー・ルール)があります。

そしてそれぞれの部における各科目の配列は、短期間に回収できる資産や短期間で返済すべき負債が上から順に並べられています。

  • 営業循環基準…材料、仕掛品、売上再建などのように、通常の営業活動において発生する資産と、その資産の調達によって生じる買入債務を、それらが1年以内に回収または支払われるか否かに関わらず、流動資産、流動負債とする方法。
  • ワン・イヤー・ルール…1年以内か、1年超かという「期間」を基準にして区別する方法。1年以内のものを流動性とし、1年超のものを固定性とする方法。

債務超過

貸借対照表において負債金額が資産金額を上回っている状態のことをいいます。債務超過に陥っている企業の資産価値は、既に相当程度毀損しており、資産勘定の中には不良資産や回収不能な債権が含まれている可能性が高く、実態債務超過額が公表債務超過額を大幅に上回るケースが一般的です。逆に土地や有価証券のなかには多額の含み益を持つ資産が含まれている場合もあります。

しかし一般的には、債務超過の企業は所有資産のすべてを売却しても負債を返済することが不可能である状態のため、金融機関も融資については慎重にならざるを得ません。

 

損益計算書

損益計算書はその決算期間に、「どの程度収益を上げたのか、その収益を上げるためにどれだけの費用がかかったのか、その結果どれほどの利益を成果として残すことができたのか」を表しています。

3つの収益、5つの費用、5つの利益

よく「損益計算書には3つの収益と5つの費用、5つの利益がある」と言われています。

3つの収益とは、「売上高、営業外収益、特別利益」を表しています。

5つの費用とは、「売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失、法人税等」を表しています。

5つの利益とは、「売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益当期純利益」を表しています。

損益計算書を分析する際には、5つの利益のうち上位の利益から順に検討してき、赤字に突き当たったら、そのすぐ上の費用に重点を当てて詳細に分析を行います。

 

キャッシュフロー計算書

意義と重要性

キャッシュフロー計算書は「期初にあった現金が、事業活動の成果により期末時点ではいくらになったか」という現金の出し入れと内訳を表しており、「企業の一定期間における現金の流れ」を表しています。

キャッシュフロー計算書は損益計算書と異なり、実際に現金が動いた事実に基づいて作成されるため、企業ごとのブレが少なく、事業実態の把握や企業間の比較分析にも活用できるなど、実態の分析に適しています。  

3つのキャッシュフロー

営業活動によるキャッシュフロー

本業により獲得したキャッシュの流れを表し、事業単体のキャッシュフロー創出力を図る指標となります。「営業活動によるキャッシュフロー」は、事業本来の成果によるものであり、優良企業はこの数値がプラスとなり、金額が大きければ大きいほど良好な会社であると推測できます。

投資活動によるキャッシュフロー

営業活動により得たキャッシュを、どのような投資に使ったか、または投資からどのようにして回収したかを表します。投資の財源がどこになるかも重要となります。投資財源として一般的に望ましい形は「営業活動によるキャッシュフロー」の範囲で投資活動を行なっていくことだと言われていますが、事業のライフサイクルがどの段階にあるかによって投資財源が変わって然るべきです。

財務活動によるキャッシュフロー

借入金の調達や返済などを表します。

キャッシュフロー分析に使われる指標

フリーキャッシュフロー

現在の事業水準を維持したうえで、会社が自由に使えるお金を表しています。理論的には「営業活動によるキャッシュフロー」から「現状の事業を維持するために必要とされるキャッシュフロー」を差し引いた金額を言いますが、数値の把握が困難であるため、簡易的に「営業活動によるキャッシュフロー」から「投資活動によるキャッシュフロー」を控除する方法で算定されることがあります。

EBITDA

支払利息、税金、減価償却費を差し引く前の利益を意味しており、設備や借入金の大小並びに会計処理の違いなどによって生じる影響を取り除いた純粋な収益力を分析するために使われます。

この指標は減価償却費や支払利息の影響を排除できるため、事業の正常な収益性を時系列で比較することができます。

 

 

倒産法と事業再生 ~事業再生③~

「倒産」という言葉はよく耳にします。しかし「倒産」を厳密に定義すること(どの時点で倒産というか)は困難です。おおまかには、債務者が従来の経済活動や経済生活を維持しながら、弁済期にある債務の大部分を返済することが困難な状況に陥っている状態を「倒産」や「倒産状態」であると考えられます。

より具体的には、手形の不渡り、夜逃げ・店じまい、支払停止、破産・民事再生・会社更生手続開始の申立て、などの行為により「倒産した」と言われることが多いです。

企業の倒産は様々な原因によって引き起こされます。内在的な原因としては、①設備過剰、②放漫経営、③合理化の立ち遅れ、④技術革新競争による敗北、⑤労働争議などがあります。外在的な原因では、①国際経済の急変、②国内の産業政策の転換、③深刻な不況などが考えられます。また1つの企業が倒産すると、その債権者が自己の債務の返済資金として予定していた債権の回収ができなくなる結果、同様に倒産に至る「連鎖倒産」が生じる危険性もあります。

倒産手続の目的

このように企業の倒産という事態は、関係者にとって不幸なことですが、社会全体という観点からは、当該企業には不健全な経済活動を止め、企業を解体・清算したり、健全な形での再出発を促したり、当該企業の経営破綻による関係者への損害を最小限に食い止め、総債権者に対して公平かつ最大限の満足を与えるための制度が必要になります。これが企業が倒産した場合に倒産処理手続が必要とされる理由であると思われます。

法的倒産処理の必要性

倒産という現象は、社会活動の中で必然的に生じるものであり、古くから自然と生まれてきました。今日のように再建型倒産手続が整備されていなかった時代には、多くの倒産事件が債権者と債務者とが任意に協議をする私的整理によって処理されてきました。それにも関わらず、法的整理手続が設けられているのは、多くの私的整理で下記のような点で限界があるからだと考えられます。

  • 債権者間の公平の確保
  • 債務者の詐害行為の防止
  • 不正な目的をもった第三者の介入の排除
  • 大規模倒産事件の処理
  • 不良債権整理の必要性

法的整理手続の分類

法的整理手続は大きく「清算型」と「再建型」に分けられます。

清算型手続きは、債務者の全財産を換価して、総債権者に債権額に応じて分配します。当然に事業解体、会社の解散・消滅を導きます。

再建型手続きは、債務者の事業の収益力を向上させ、他方でその債務を向上させた収益力で支払える範囲に圧縮することで、その支払い能力を回復させ債務者を経済市場に戻す。

 

清算型倒産手続

清算型倒産手続は破産手続、特別清算に分けられます。

破算手続

破産手続は債務者の種別に関わらず、広く適用される一般的な清算型手続です。

破産手続は破産手続開始決定と同時に裁判所によって弁護士の中から選任される破産管財人が、裁判所の厳格な監督下で得た破産財団を管理・処分して得た金銭を、総債権者にその優先順位に従って公平に分配していく管理型の清算手続となります。

換価金を債権者に康平に分配するという破産手続の目的は、企業の企業・事業者には妥当しますが、個人債務者の破産の場合には実際は配当原資となる財産が殆どなく、債権者に配当がなされるのは珍しいことになります。

破産手続きは破産手続開始原因(支払不能債務超過)が存在するときに、債務者会社自身、取締役、債権者の申立てに基づき、裁判所が発令する「破産手続開始決定」により開始します。

破産手続の手続機関には破産管財人、債権者集会、債権者委員会などがあります。

個人破産

個人破産は2003年に24万件超の破産手続開始決定がありました。その背景には消費者金融・割賦販売・ローン提携販売・クレジットカードによる信用取引が、一般に広くかつ急速に浸透したことが要因の一つであると考えられます。

個人が破産した場合に、その経済的更生のために重要な役割を果たすのが、免責許可決定によって破産債権につきその責任を免除する破産免責制度です。破産免責制度には更生手段説と特典説があります。

更生手段説

不誠実でない債務者の更生手段とみる考え方。個人債務者の破産を消費者信用の膨張に伴って必然的に生じる現象と捉え、多重債務に陥った債務者を経済的に更生させるため、積極的に破産免責を運用すべきであるとする。

特典説

誠実な債務者に対する特典という考え方。消費者信用が膨張する中でたとえ個人債務者が多重債務に陥ったとしても、その責任は基本的に債務者本人にあり、安易な免責付与により債務履行についての責任感を失わせるのは好ましくないとする。

特別清算手続

破産手続が債務者の種別を問わずに適用される一般的な清算型手続であるのに対し、特別清算は既に解散し清算手続に入っている株式会社に適用することを予定した清算型倒産処理手続です。

通常清算の手続きに入った企業に、債務超過の疑いや、清算に支障をきたすような事情が明らかとなった場合、債権者や株主といった利害関係者の対立が生じてきます。このような場合に、裁判所の監督のもとに、従前の清算人が専ら債権者との交渉に基づいて作成する「協定」を軸として進める特別の清算手続となります。特別清算は利害関係人によっる自治が重視されており、破産と比較するとはるかに簡易で柔軟な清算手続となります。ただ特別清算はあくまでも清算手続の延長、通常の清算手続を厳格化した特殊な清算手続であり、破産手続の特別手続ではありません。

特別清算の手続開始原因は、①会社の清算事務の遂行に著しい支障をきたすべき事情があること、②会社に債務超過の疑いがあること、です。「債務超過の恐れ」「支払不能」はその事実が発生した時点では会社が事業を継続していることが前提の概念であるため、既に解散し清算の株式会社を前提とした特別清算では、手続開始原因とはなりません。

手続機関には清算人、清算会社の行為制限・監督委員、調査委員、債権者集会などがあります。

 

再建型倒産手続

民事再生法とは

従来の和議手続のもつ債務者主導の簡易な手続としての性格を維持しつつ、和議手続の欠陥をできる限り是正する形で創設された、再建型の一般手続としての民事再生手続に関する基本法です。

通常再生手続

民事再生手続の対象となる債務者の範囲については特段の制限を設けていません。医療法人や学校法人、個人事業者も利用が可能です。民事再生手続は、債務者に再生手続開始原因があり、申立権者による適法な申立がなされ、かつ申立棄却事由が存在しないときに裁判所の手続開始決定によって開始しますが、裁判所が職権により再生手続を開始することはありません。

再生手続開始原因
  1. 破産手続開始原因たる事実(支払不能債務超過)が生ずるおそれがあるとき
  2. 債務者が事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき
再生の3パターン
  1. 再生手続では債務者自身が再生手続開始後も、そのまま業務の遂行及び財産の管理処分を継続しながら事業の再建を目指すDIP
  2. 監督委員による監督を命ずる監督命令を発令し、監督委員の監督下で再生債務者が事業の再建を図る方式
  3. 再生債務者が法人の場合で、現経営陣にそのまま業務の遂行・財産の管理処分を委ねることが不適切な場合には、開始決定前に保全管理命令を発令し、保全管理人に再生債務者の業務遂行・財産の管理処分を委ね、開始決定後に引き続き管理処分を委ねる管理型
再生計画

再生債務者の事業の再建には、原則として債務者自身が作成した「再生計画」と呼ばれる再建計画に従って行われます。再生債務者等は、再生計画案を裁判所の定める期限内に提出します。

しかし、再生債務者たる株式会社が債務超過の状態で、再生計画の認可までに事業の価値が劣化が著しく、事業の維持・継続に支障が生じる場合は例外的に手続き開始後再生計画によることなく、かつ株主総会の特別決議がなくても、裁判所の許可だけで第三者に事業譲渡を行うことができます。

個人再生手続

消費者信用制度の国民への浸透という構造的要因に加え、バブル経済崩壊後の長引く景気低迷などが重なり、個人破産申立件数は増加傾向でありました。個人再生手続はこのような状況下で、従来の法的倒産手続間にある間隙を埋め、個人の経済生活の再建のために選択しうるメニューを多様化させるために導入されました。個人債務者はこの手続を利用することで、通常の民事再生手続より簡易・合理化された手続で、破産手続の利用による不利益を避けながら、また他方で、民事調停では得られない強制力ある弁済計画を立てることを目的として導入されています。

個人再生手続の概要

個人債務者のために特化された再生手続としては、小規模個人再生と給与所得者等再生があります。

小規模個人再生

零細事業者を含む個人に対する特別の再生手続です。対象者は、将来において継続的または反復的な収入の見込みがあり、かつ無担保の再生債権総額が5,000万円未満の個人債務者です。再生計画は再生債務者のみが提出します。

給与所得者等再生

サラリーマン、OLが対象となります。小規模個人再生との共通点が多いですが、一定の弁済額を確保することを条件にして、再生債権者の決議自体を省略する点が最大の特徴です。よって弁済計画による弁済がその収入に照らして合理的かつ最大限のものであることが客観的に確認できるものですなければなりません。

民事再生法による民事再生手続は通常再生、小規模個人再生、給与所得者等再生の順で、手続を利用できる債務者の範囲が狭められている。

会社更生手続

会社更生は、株式会社に特化した再建型の倒産処理手続です。事業の維持・再建に向けて強力かつ豊富な手段が整備されされている制度となります。

会社更生法の特徴は、大規模な株式会社の迅速かつ円滑な再建を可能とするため、更生手続の迅速化及び合理化を図るとともに、再建手法を強化し、現在の経済社会に適合した機能的な手続きに改めた点になります。

会社更生手続と民事再生手続との間には、担保権や租税債権などの処遇につき歴然とした違いがあります。しかし民事再生手続でも管財人が選任されるケースや、DIP型会社更生手続の導入、会社更生手続の利用会社の小規模化など、実際の運用の場面での両手続の差は小さくなってきています。

更生手続の開始原因
  1. 破産の原因たる事実が生じるおそれがある
  2. 事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができない
手続機関
  • 更生管財人
  • 関係人集会
  • 更生債権者委員会・更生担保権者委員会・株主等委員会
更生計画案

更生計画案は、更生管財人が立案し裁判所に提出するのが普通でありますが、会社・更生債権者・更生担保権者・株主も、独自の計画案を提出することができます。

更生計画案が裁判所に提出されると、更生計画案について決議が行われます。法廷多数決にて可決され裁判所が認可すると、更生計画の効力が生じ、各関係人の権利は更生計画が定める内容に変わり、もとの権利はなくなります。

 

裁判外の倒産処理手続

法的整理手続は、多かれ少なかれ債務者に倒産企業ないしは破産者の烙印を押し、その再生を困難にするという要素を抱えています。そこで裁判外の(合意による)より緩やかな手法による倒産処理が求められています。裁判外の倒産処理は私的整理と倒産ADRとに分かれます。両社は中立的な第3者が手続きに介在するかによって区別されます。中立的な第3者が介在する場合を、倒産ADRと呼んでいます。

 

私的整理

私的整理とは裁判外で(合意により)、債権者と債務者とが任意に協議をして債務整理をすることです。ながく多くの倒産事件が私的整理により処理されてきました。私的整理では私的自治の原則が支配し、法定の手続が決まっているわけではありませんが、一応の手続慣習が事実上出来上がっています。私的整理では、利害関係人による話合いとそれを踏まえた債権者委員長や弁護士の創意・工夫により各事件の個性に合わせた弾力的な処理を行うことができるのが特徴です。

私的整理の課題

私的整理はうまく行われれば理想的な倒産処理が実現できますが、以下のような課題もあります。

  • 手順が法定されていないため、透明性や予測可能性の点で限界がある
  • 裁判所の監督がなく、保全処分、強制執行の停止、否認権などの、手続を適正に担保するためのシステムが全く備わっていない。
  • あくまでも債務者と債権者の合意に基づく手続であることから、両者の交渉が必ずしも透明なものとは限らない。
経営者ガイドライン

私的整理には多くのメリットがあるものの、手続の透明性や予測可能性の限界により、実際に債務者企業の実情に沿わない安易な債権カットや問題の先送りに留まるケースもありました。

そこで金融機関の不良債権処理と企業の過剰債務問題を一体的・抜本的に解決するため、「私的整理ガイドライン」が策定されました。私的整理ガイドラインは、複数の金融機関に対して返済困難な債務を抱えた企業のうち、過剰な債務をある程度軽減することで再建できる可能性のある企業を救済するため、債務者企業と複数の金融機関が協議したうえで、債権放棄やデット・エクイティ・スワップなどの金融支援を行い、公明正大で透明性のある私的整理を行うための手続準則のことをいいます。

基本的には資金繰りに窮する以前よりも早い段階で私的整理に着手し、迅速に事業再生を目指すものであり、商取引債権を毀損することなく、通常の営業を維持することが当然の前提とされています。

倒産ADR

裁判外で中立公正な第三者の関与によって、債務者の倒産処理、事業再生を目的として再建契約や債務調整の合意を測っていく手続をいいます。簡易迅速性・柔軟性・秘密保持性・当該企業の事業価値の毀損を防ぐことができます。

倒産ADRには、介在する中立的第3者の設営者・運営者の属性に応じて①司法型、②行政型、③民間型の3種類があると言われています。

司法型倒産ADR

従来からある民事調停法のもとで、事実上、倒産処理手続としての機能を営んできた、債務弁済協定調停の機能を充実・強化する目的で行われます。

行政型倒産ADR 

中小企業再生支援協議会が行う倒産ADRで。産業再生機構と異なり、金融債権の買取などはなく、あくまでも中立的な第三者としての立場で債務者の事業再生に関与する。

民間型倒産ADR

特定認証ADRのことをさします。基本スキームは私的整理ガイドラインの事業再生スキームに依拠したものですが、特定認証ADRでは特定認証ADR事業者があくまでも中立的な第3者として債務者の事業再生に関与するという点では、私的整理ガイドラインに基づく事業再生とは決定的な違いがあります。

事業再生の構造変化と取組み ~事業再生②~

長引く不況により中小企業の経営状況は悪化しています。金融機関目線では不良債権について、従来の倒産処理という認識から、事業再生による失業の予防、地域経済の活性化にシフトしつつあるように感じます。

今回は事業再生の焦点が、従来のBS型からPL型へ変化しつつあることや、金融機関の役割、経営改善契約書の策定、セーフティネットについて書いていきます。

事業再生の構造変化

BS調整型→PL調整型へ

バブル崩壊後の事業再生において焦点となっていたのは、バランスシート調整を行うタイプの不良債権処理が中心となっていました。コア事業は黒字でもノンコア事業に市場競争力がなく赤字で過大な債務を負っており、それが経営を圧迫しているといった場合です。これに対し、過剰設備の売却・閉鎖や過剰債務のDES・DDSの処理といったバランスシートの調整が行われました。

しかし最近ではこのようなバランスシート調整型(以下BS型)の事業再生のみでは解決できない問題が多くなってきています。原材料価格の上昇やリーマンショックなどの金融経済環境の悪化などで、需要や採算が急激に悪化し、競争力や収益力のあったコア事業が赤字に転落してしまうといったケースが増加しています。最近ではコロナウイルスによる需要の蒸発や、円安の加速による原価高騰などもBS型では解決が難しい問題です。

特に中小企業ではコア事業以外の事業が存在しない方が多いため、事業再生においてBS型よりも、損益計算書型(以下PL型)を主体とし、収益力の低下したコア事業の強化・収益力向上を図っていく必要があります。

PL調整型事業再生の特徴

PL改善型の特徴はコア事業の強化・改善による売上高の向上、業務見直しによる原価・コストの削減などの経営改善による業務リストラが主体となります。そのための事業計画の策定がポイントになります。

 

再建計画の策定

経営不振の中小企業にとって、経営改善計画をどのように策定できるかが、極めて重要になってきます。企業の状況や業種によって違いはありますが、再建計画に共通する記載事事項をリストアップしていきます。

①企業の概況説明

株主構成、組織図、事業内容、経営理念など

②外部環境分析

企業の置かれている市場環境・競争環境を見つめなおし、事業の選択と集中を推進するため活用します。SWOT分析、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)、ビジネス・スクリーン(マルチファクター・マトリックス)、ファイブフォース分析、バリューチェーン分析など。

③内部環境分析

企業の持つ経営資源について、強み・弱みを識別し、問題点の核心や問題解決の優先順位を明確にします。SWOT分析、バランスト・スコアカードなど

④業績及び財産等の推移

経営不振の真の原因を探します。PL、BSの5〜10期の比較分析。キャッシュ・フロー計算書の作成、実態バランスシーの作成など

⑤窮境要因の分析、除去可能性

①~④の事項で事業、財務、内外部環境、競合他社の状況の多面的な分析を行った各項目について、各々の問題解決の具体的可能性と方法を検討します。

⑥経営再建についての概要

  1. 経営者の責任
  2. 具体的数値計画(損益計画、設備投資計画、資金計画、予想貸借対照表,具体的な行動計画)

計画スケジュールの管理者をきめ、5W1Hを意識しながら具体的なアクションプランを定期的にモニタリングしていきます。

 

セーフティネット保証制度

セーフティネット保証とは

セーフティネット保証制度とは、業況が悪化している業種の中小企業者を対象に、民間金融機関から融資をうける際に信用保証協会が返済を保証する仕組みです。一般保証の限度額が別枠化されています。最近ですと、リーマンショック東日本大震災新型コロナウイルスなどで設けられました。

セーフティネットの活用

セーフティネット保証により資金調達が可能となっても、国の緊急的な制度によって当面の資金繰りが確保できたことに留まります。むしろ借入金の毎月の返済金額は増加するため、現状維持では資金繰りが窮してしまうことが予想されます。

セーフティネット保証によって一時的に資金繰りに余裕が生まれたときに、いかに企業価値の向上や、本業の収益性を高めていけるか、中長期的な資金繰りを改善する対策を講じることができるかが重要です。

事業再生の経緯 ~事業再生①~ 

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事業再生を検討する原因は様々ですが、「収益の低迷や資産価値の毀損等を原因として、独力での事業の継続に支障をきたしている。また近い将来に支障をきたす恐れのある企業」が対象となることが多いです。このような事業者は、過剰債務や営業キャッシュフローがマイナスである等の状態であることが予想されます。

事業再生はこのような状態を解消するために、事業再構築や財務再構築を実行することにより、持続的な事業の存続及び成長を可能とするプロセスです。

経営不振の原因

経営不振の原因の多くは、生産設備の稼働率の低下や集客力の悪化などの「収益性の低迷」が先に表れ、それが資産価値の毀損等に繋がります。

収益性の低迷の原因

  • 市場の読み誤り
  • 限界利益率の低下(価格競争に巻き込まれるなど)
  • 需要の落ち込み
  • 原料価格の高騰

事業再生に至るまでのイメージ

選択と集中

「収益性の低迷」を短期間で解消することは困難です。中長期的な視野に立ち、競争力を維持しつつ改善努力できるかがポイントとなります。場合によっては事業の縮小や撤退を判断することも必要です。いわゆる「選択と集中」です。特に積極的な多角化裏目に出て経営不振に陥った企業は、限りある経営資源が分散しているため「選択と集中」により、企業が本来持っている経営資源を重点事業分野に集中し、収益性を回復させることが必要です。

経営不振の原因は、収益性の低迷と資産価値の毀損が互いに結びついており、事業と財務の両面から再構築を図る必要があります。

事業再構築

事業再構築は「選択と集中」が大きな骨格となります。重点事業分野ではないノンコア事業からの撤退により過剰な設備と人員の削減、それに伴う退職金制度の見直しなどを行います。

財務再構築

財務の再構築には外部機関の協力が必要となります。債務のリスケジュール、債務免除、DDS、DESなどの手法も含まれます。

中小企業は単一事業を営んでいることが多く、大企業と異なり、事業分野における「選択と集中」を大胆に行うことが困難になります。また経営者自身がオーナーであること、直接金融の手段がなく金融機関からの借入金調達が主体であることから、事業と財務のモニタリングが金融機関のみにとなることから、金融機関からの支援が重要となります。

中小企業の事業再生については、①手法の選択肢が狭いこと、②企業自身からの再生着手が遅れがちになること、の2点に注意し金融機関からの支援を伴う「早期着手」が特に重要になります。

 

早期着手と迅速処理の重要性

事業再生は事業運営上に何か問題が認識されたときに、すぐに「内外の人材を活用して解決を試みる」というリスク管理プロセスの延長線上にあります。経営不振企業は新製品開発の遅れ・保有技術の陳腐化・過剰設備投資・事業投資意思決定の失敗・企業不祥事の発生によるブランドイメージの毀損といった問題に対して、リスク管理プロセスが十分に機能しなかったことにより、売上減少・利益減少・不良資産増加・資金繰り悪化・過剰債務状態といった症状が表出してきます。

早い段階で再生に着手することで、各ステークホルダーからの協力が得やすい、様々な再生ツールの選択・活用が可能になります。早期着手により事業再生が成功する可能性が高くなります。

キャッシュフロー経営

事業再生の取組のなかで、企業の経営管理指標として「キャッシュフロー関連指標」を活用します。

キャッシュフローとは「本業からどれだけのキャッシュを稼いだか」「設備投資や運転資金にいくら使ったのか」「税金・利息はいくらか」「借入金の増減」などという資金の流れのことを指します。キャッシュフローの利点は、会計上の利益が会計処理方針によって変動するのに対し、現金自体は残高として確定しているため、実質的な数字が把握できることです。

しかしキャッシュフローだけ気にしていればOKというわけではありません。業績悪化時には債権の回収段階に入るため、一時的にキャッシュフローが改善するという傾向があり、キャッシュフローの変調ばかりに気を取られてしまうと、事業の変調を見逃してしまう懸念もあります。

キャッシュフロー経営とは、「従来の指標も当然に管理対象としながら、その限界を補完するキャッシュフローベースの指標にも着目していこう」という発想です。現在あらゆるステークホルダーに共通した企業の価値は「企業が将来生み出すことが予想されるフリーキャッシュフローの現在価値」と言われています。伝統的な指標をキャッシュフローベースの指標を通じて企業価値と連動させることが、キャッシュフロー経営の目的です。

代表的な経営管理指標

経営管理指標には、事業投資や撤退の意思決定のための将来予測評価のために用いられる指標と、過去の実績を評価するために用いられる指標があります。代表的なものを下記に挙げていきます。

収益性
  • 将来予測評価…IRR、NPV
  • 過去実績評価…EVA、CFROA、EBITDA、FCF
安全性
成長性

早期着手という観点からは、過去の業績評価指標が重要です。過去からの傾向値を捉えて原因を追求し対策を講じる必要があります。

 

再生のフレームワーク

収益性の回復

売上の増加(or減少のストップ)、費用の削減による利益の回復を図ります。これによりキャッシュフローの改善に取り組みます。

短期的には自社製品の競争力や収益性を分析し、採算性の低い製品についてはラインナップを絞り込みします。長期的にはマーケティング戦略を再度点検し、開発・製造・販売・流通・回収といった事業サイクルにおける体制強化のための管理体制と教育を徹底していきます。

費用のコントロール

損益分岐点分析により変動費と固定費を分析します。同業者のデータを参考にし、時系列のデータを持って動態的に分析することが重要です。

変動費の改善案

  1. 製品の構成を見直し、部品点数を減らす。部品の形状を見直し、より原料の使用の少ない部品の開発
  2. 購買先を評価しランク付し、重要な評価項目として価格を織り込むことで仕入れ単価・外注単価を引き下げる
  3. 標準原価を導入し原価を徹底管理し製造原価を低減する

固定費の改善については、従業員のリストラ、スタッフ機能のアウトソーシング活用などが検討できるが、組織全体の士気に悪影響を及ぼす可能性もあり、慎重な対応が必要です。

事業再編

損益改善・キャッシュフロー改善努力にも関わらず、十分な回復ができず、より大胆な改革が必要になった場合に、事業再編(遊休不動産の売却、共同事業の統合、M&Aなど)を検討していきます。

事業再編のステップ

まずは事業の適切な分類と事業価値の評価を行います。切り出された各事業について、現在の投下資本と今後の投下予定資本、創出されるキャッシュフローから合理的な事業価値を算出していきます。

どの事業をコア事業・ノンコア事業とするかを決定し、コア・ノンコア事業の中でさらに複数の事業分野がある場合は成長分野・成熟分野・衰退分野・可能性分野に分類します。分類された各事業について事業間のシナジー効果も考えながら、企業価値を最大化するための事業の選択と集中を判断します。

資源を集中する分野においては事業統合・新規資金調達をし、縮小・撤退をする分野については各種M&Aを比較して再生方針に最も合致した手法を選択します。

再編後の事業運営を成功させるためには、戦略と戦術を明確にし準備を進めることが重要です。単に不採算部門を切り離す会社分割をしても、本業の収益が悪い場合にはこれを回復させるための再建計画がなければ本来の再生の目的は到底到達には至りません。

 

迅速処理による事業再生

損益・キャッシュフローの改善のための収益性向上のための努力や、資産売却等による有利子負債の圧縮努力を行い、各種手法を用いた事業再編にも関わらず、なお再生が果たせない場合、企業はいよいよ窮境状態となります。

この段階では事業価値の劣化が激しく、実質債務超過の状態であり、財務リストラを含めた抜本的な計画策定と実行が求められます。この場合の再生計画では利害関係者の権利変更が織り込まれるため、計画の妥当性・債権放棄等の衡平性・債権放棄に応じる利害関係者の経済合理性などが求められ、調整に長時間を要します。再生のためのツールとしては「法的整理」と「私的整理」の2つがあります。

私的整理

私的整理を行うには、債務者企業の置かれている現状の徹底的な調査(過去の財政状態・経営成績の推移・外内部環境・窮境原因・再建可能性)を行います。その後財務リストラを含む再生計画の策定が行われることになります。その際には弁護士・公認会計士・税理士といった専門家を利用することで、公正かつ迅速な処理が可能となります。

私的整理は法定の手続きを取らずに、主に金融機関の合意で債権放棄などを行う可能性を検討します。

私的整理のメリット

  • 法的整理に比べて迅速な解決が可能となる
  • 水面下の交渉で検討されるため事業価値の毀損が少ない
  • 債権者にとっても、法的整理と比較し回収額が多くなるといった経済合理性がある可能性
  • 金融機関以外の債権者の債権は全額弁済され、従業員のリストラの規模も法的整理と比較し少なくなる可能性もあり、社会的なメリットは大きい

しかし私的整理には法的な拘束力がないため、一部の債権者に対する偏頗弁済や詐害行為によって衡平性に欠ける危険性があるほか、債権者全員の同意が必要になるため合意に長時間を要することもあります。

法的整理

法的整理の場合、再生計画認可まで通常は民事再生で6ヶ月、会社更生で1年の期間を要することになります。そこであらかじめ主要な債権者と権利変更について実質的に合意を得たうえで申し立てを行い迅速に手続きを終了する、プレパッケージ型法的整理という手法が利用されることがあります。

プレパッケージ型民事再生手続

DIP型を採用しており、経営者は再生手続開始後も引続き事業経営権と財産処分権を有しつつ事業再生に取り組むことが出来ます。これにより経営者は再生手続開始前に自律的に進めていた事業再建計画を、民事再生のなかで実現していくことが可能です。

プレパッケージ型会社更生手続

事業再生に伴い、増資による資本構成の変更や会社分割・合併等の組織再編を伴う場合には、担保権者や株主も法的規制の対象となる会社更生による方が容易に実行が可能となります。

 

再生支援の金融制度の変化

キャッシュフロー融資慣行

バブル崩壊後に経済環境の悪化とともに資産デフレが進行し、不動産等を中心とした資産価値を担保とする融資慣行は、金融機関にとってリスクを高めています。金融機関がこうしたリスクを分散するため、「従来の信用=資産」ではなく「信用=事業価値または企業価値」というキャッシュフローに着目した融資慣行へと移行しつつあります。

リレーションシップバンキング

リレーションシップバンキングとは金融機関が顧客との間で親密な関係を構築し、企業の情報を得て融資等を行うビジネスモデルのことです。2003年3月に金融庁が公表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づき、①取引先企業の経営相談・支援機能の強化、②早期事業再生に向けた取組、③新しい中小企業金融への取組強化といったことが評価されました。

また2005年5月には、上記プログラムを承継するものとして「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラムを策定し公表しました。具体的なポイントは

①創業・新事業支援機能等の強化、②取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化

③事業再生計画に向けた積極的取組、④担保・保証に過度に依存しない融資、⑤中小企業の資金調達手法の多様化等、⑥顧客への説明大勢の整備、相談苦情処理体勢の強化、

⑦人材の育成となっています。

こうした地域密着型金融の従前からの取組を踏まえ、これをさらに拡充・強化したものとして2009年に中小企業金融円滑化法が成立・施行されました。

事業再生ファンド

日本経済を取り巻く構造変化により、従来型メインバンクの役割が相対的に低下しているなかで、事業再生ファンドの存在感や役割期待が高まっています。不良債権の売却先として、私的整理後の企業の財務内容安定化のためのエクイティの出し手として、既存金融機関では対応が難しい部分について、事業再生ファンド等が積極的な役割を果たしてきました。

また事業再生ファンドは、再生計画の実行フェーズにおいても、再生プロセスの管理者として、大きな役割を果たしています。再生対象企業の財務・事業リストラクチャリングに向けたマスタープランの策定から、当該プランの実行のサポートまで、対象企業に外部から経営者を招聘もしくはファンド自ら人材を派遣したうで、支援先の従業員とともに内部から改革を主導します。

事業再生ファンドにとっての最終的な出口は、支援先企業が自律的な回復軌道に乗り、企業価値が上がった段階で投資持分を売却し、資金回収をすることです。対象企業にとっては、ファンドの出口の際に、再度大株主が変更となる点において不安定な材料はのこるものの、企業価値の向上を図るという点においては、対象企業とファンドの利害は一致することになります。

サービサー

サービサーは金融機関の不良債権問題によって誕生しました。不良債権処理のための一つの方法として、債権管理・回収の受託業務を行うとともに、債権の買い取り業務を実施し、金融機関が抱える不良債権のオフバランス化に貢献してきました。最近では通常業務に加え、企業再生のサポートを行うサービサーも登場し実績も多数上げているようです。再生対象企業のノンコアの不採算事業の整理・コア事業の再生プランの立案、資金調達のアレンジなど、財務リストラクチャリングに向けた動きを総合的にサポートする動きを進めています。

 

事業再生に関連する公的施策・法整備

ここからは事業再生を支える法制度や公的施策についてまとめていきます。

事業再編などの法整備

純粋持株会社独占禁止法改正)

自ら事業を行わず、親会社が複数事業の株式を所有し、グループ全体の戦略や企画を行うことに特化した組織形態をあらわします。陣俗な事業構造の再構築が可能となるメリットがあり、事業ごとに会社が分割されることで、M&Aが行いやすくなりました。

株式交換・移転制度

会社がその完全親会社を設立するための制度です。完全子会社となる会社の株主が、完全親会社となる会社の新設をするために、保有する株式を拠出する代わりに、完全親会社の株主となります。グループ内純粋持株会社の設立や、事業統合における兄弟会社化に活用が検討されます。

・会社分割制度

既存の会社の事業または一部を他の会社に包括的に承継させる制度です。株式交換・移転及び会社分割制度は、いずれも従来の法制度上の障害を克服し、事業再編のための手続きを大幅に簡素化した制度となります。

・組織再編税制、連結納税制度

合併、会社分割、現物出資、事後設立に関して従来課税されていた資産の移転、株式の譲渡などが、一定の要件を満たせば非課税で行えるようになりました。

・自己株式取得の原則解禁(金庫株の解禁)

資本の出し入れが容易になりました。株価低迷時に安値で自社株を買い、株価回復時に株式交換や高値で流通させることも可能となりました。

倒産法制など

民事再生法の制定

和議法に代わり制定。破産原因がなくとも手続を始めることができるよう開始原因を広くし、再生計画案可決の多数決要件を緩め過半数とするなど、さまざまな点で使いやすい制度となりました。

・私的整理ガイドランの公表

このガイドラインによる私的整理がはじまると、金融機関など対象債権者の権利行使は一時停止されますが、一般の商取引債権の支払や決済は停止されません。一定の要件を満たせば、金融機関の債権カットのみのため上場廃止にならないというメリットもあります。

会社更生法・破産法の改正

民事再生法があらゆる法人・自然人に手軽に利用できる手続であることに対して、会社更生法は大企業向けを想定し、株式会社だけに適用されます。

・事業再生ADRの開始

民事再生法会社更生法の申し立て前に、当事者間での債務調整が難航するケースが多いことから整備されました。簡易かつ迅速な私的整理手続となります。

政府系機関等による支援

産業活力再生特別措置法

事業再編のための計画を立案して経産省の認定を受けると、事業再構築計画を実行にうつすために税制等便利な複数の特例が適用されます。

整理回収機構(RCC)

住宅金融債権管理機構整理回収銀行の合併により設立されました。信託機能および買取機能を活用した、中小零細企業の再生スキームを創設しています。

サービサー

法務大臣の許可を得た債権回収会社は、委託を受けて金融機関等が有する貸金債権または譲り受けた貸金債権の管理回収業務をおこないます。

産業再生機構IRCJ)

有用な経営資源を有しながら、過大な債務を負っている企業に対し、事業再生支援をすることを目的とします。債権買取、資金の貸し付け、債務保証、出資などの業務を行います。2007年に解散。

中小企業再生支援協議会

産業再生機構が大企業を対象としたのに対して、中小企業を対象としています。専任の再生専門家を配置し風評リスクに対する抵抗力の弱い中小企業の実態に即し、守秘義務を厳守のうえで、公正中立な立場から再生に必要な助言や再生計画策定支援を行います。

企業再生支援機構(ETIC)

2007年に解散した産業再生機構の後身となります。

金融機関による支援

・リレバン・アクションプログラムの恒久化

各地域金融機関で、経営改善支援、事業再生などライフサイクルに応じた取引先企業の支援強化などが共通に引き続き求められることになりました。

公的資金繰り支援・中小企業金融円滑化法

金融検査マニュアルの弾力化、貸付条件の変更に応じる努力義務を課していました。

民間金融機関の無利息型融資に変わる新制度「伴走」スタート! その内容とは?

新型コロナ感染症による経済への影響が出ている中で、昨年から始まった民間金融機関による無利息型融資は令和3年3月31日受付分をもって終了しました。しかしながら依然として新型コロナウイルス感染症は事業活動に大きな影響を与えています。

今まで民間金融機関による無利息型融資は保証協会付融資として信用保証協会の保証を受けていました。東京信用保証協会では無利息型融資に続く融資商品として「伴走全国」「伴走対応」「経営サポート(都改サポ感染)」「事業転換・業態転換(事業・業態転換)」をリリースしました。

今回はこの新たな4つのコロナ融資制度から特に利用がしやすいと考える「伴走全国」「伴走対応」について解説していきます。

 伴走全国

融資上限:4,000万円

資金使途:運転・設備(既存債務の借換も可能

期間:10年以内(元金据置は5年以内)

金利:融資期間 3 年以内    1.7%以内
        3年超 5年以内   1.8%以内

        5年超 7年以内   2.0%以内

                             7年超10年以内  2.2%以内

金利については保証協会の保証割合が100%である場合は0.2%下がる可能性あり。

信用保証料なし

セーフティネット4号・5号・危機関連保証に関する市区町村の認定経営行動計画書が必要

 

伴走対応

融資上限:2億4千万円

資金使途:運転・設備(既存債務の借換は不可

期間:10年以内(元金据置は5年以内)

金利:融資期間 3 年以内    1.7%以内
        3年超 5年以内   1.8%以内

        5年超 7年以内   2.0%以内

                             7年超10年以内  2.2%以内

金利については保証協会の保証割合が100%である場合は0.2%下がる可能性あり。

信用保証料4,000万円以下は負担なし

      4,000万円超部分は1/4負担

セーフティネット4号・5号・危機関連保証に関する市区町村の認定経営行動計画書が必要

 

セーフティネットの取得と事業計画書の作成が必要

無利息型のコロナ融資に代わる商品がこの「伴走全国」「伴走対応」です。特徴は保証協会へ支払う信用保証料は国や東京都の全額補助により事業者負担がない、もしくは1/4と負担が少ないことです。融資期間も最長で10年、返済方法についても元金据置が5年まで使用できる点は、無利息型のコロナ融資の内容を引き継いでいるように感じます。

コロナ融資と同じように伴走全国・伴走対応ともに自治体のセーフティネットを取得する必要があります。セーフティネットの概要についてはこちらを参考にしてください。

www.magta.net

www.magta.net

また伴走全国・伴走対応は申請時に「経営行動計画書」という事業計画書の提出が求められます。事業計画書といってもA3で1枚のシンプルなものです。 この計画書も作成しておくと話がスムースかもしれません。

記入例:https://www.cgc-tokyo.or.jp/download/cgc_keieikoudokeikakusho_kinyurei_2021-4.pdf

 

伴走全国と伴走対応の使い分け

 ここまで伴走全国と伴走対応の内容について見てきました。どちらも大きな違いは無いように感じます。伴走全国は融資上限が4,000万円であるため、仮に5,000万円の申請をすると伴走全国で4,000万円、伴走対応1,000万円のように2本立てとなるようです。

伴走対応の商品目的にも「伴走全国の融資限度額の範囲では必要な資金調達額を賄うことができない中小事業者の資金繰りの円滑化を図る」と記載があります。信用保証料の観点からもまずは伴走全国から利用するのがいいのではないかと考えます。

 

企業の思い切った事業再構築を支援! 中小企業等事業再構築促進事業

 

令和2年度3次補正予算において実施が予定されている補助金があります。

その名も「事業再構築補助金

ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業の思い切った事業再構築を支援し、日本経済の構造転換を促すことを目的としています。

↓↓リーフレット↓↓

https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/jigyo_saikoutiku.pdf?0326

 

 

申請要件

・売上が減っている(申請前の直近6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高がコロナ以前の同3ヶ月と比較して10%以上減少)

・事業再構築へ取り組む(事業再構築指針に沿った新分野展開、業態転換、事業・業種転換)

・認定経営革新等支援機関と事業計画を策定する(補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均3%、グローバルV字回復枠は5%以上増加、または従業員1人あたり付加価値額の年率平均3%、グローバルV字回復枠は5%以上増加の達成を見込む事業計画を策定)

 

付加価値とは?

一般的には「営業利益+減価償却費+人件費」

設備投資を実施すると減価償却費が増加するため、景気回復や新規事業で売上が増加すれば達成できる可能性がある。

 

補助額・補助率

中小企業

・通常枠:補助額100万円〜6,000万円 補助率2/3

・卒業枠:補助額6,000万円〜1億円 補助率2/3

中堅企業

・通常枠:補助額100万円〜8,000万円 補助率2/3

・グローバルV字回復枠:補助額8,000万円超〜1億円 補助率1/2

 

補助対象経費

補助金は基本的に設備投資を対象とするもの。設備費、建物建設費、改修費、撤去費、システム購入費も対象。

新しい事業開始に必要となる研修費、広告宣伝費、販売促進費も対象。

 

事業計画の策定が必要

補助金には審査があります。補助金の審査は事業計画をもとに行われるため、採択されるには合理的で説得力のある事業計画が必要となります。

事業計画は認定経営革新等支援機関と相談しつつ進めていくのがオススメです。事業実施段階でのアドバイスやフォローアップが期待できます。

 

事業計画に含めるべきポイント

・事業内容、強みや弱み、機会や脅威、事業環境、事業再構築の必要性

・事業再構築の具体的内容(製品、サービス、導入する設備など)

・新事業の市場状況、自社の優位性、課題やリスクとその克服方法

・実施体制、スケジュール、資金計画、収益計画

 

事務局HP・公募要領

↓↓事業再構築補助金事務局HP↓↓

 

jigyou-saikouchiku.jp

 

↓↓公募要領↓↓

https://jigyou-saikouchiku.jp/pdf/koubo001.pdf

 

コロナウイルスが依然として猛威を振るっている中で、今後の事業運営について展開をご検討している経営者の方も少なくないのではないかと思います。

さまざまなことにチャレンジしたくても、どうしても先に投資費用が必要となります。そのような場合にはこのような補助金も活用してみてはいかがでしょうか。