まぐ太の金融と経営の扉

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事業再生の経緯 ~事業再生①~ 

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事業再生を検討する原因は様々ですが、「収益の低迷や資産価値の毀損等を原因として、独力での事業の継続に支障をきたしている。また近い将来に支障をきたす恐れのある企業」が対象となることが多いです。このような事業者は、過剰債務や営業キャッシュフローがマイナスである等の状態であることが予想されます。

事業再生はこのような状態を解消するために、事業再構築や財務再構築を実行することにより、持続的な事業の存続及び成長を可能とするプロセスです。

経営不振の原因

経営不振の原因の多くは、生産設備の稼働率の低下や集客力の悪化などの「収益性の低迷」が先に表れ、それが資産価値の毀損等に繋がります。

収益性の低迷の原因

  • 市場の読み誤り
  • 限界利益率の低下(価格競争に巻き込まれるなど)
  • 需要の落ち込み
  • 原料価格の高騰

事業再生に至るまでのイメージ

選択と集中

「収益性の低迷」を短期間で解消することは困難です。中長期的な視野に立ち、競争力を維持しつつ改善努力できるかがポイントとなります。場合によっては事業の縮小や撤退を判断することも必要です。いわゆる「選択と集中」です。特に積極的な多角化裏目に出て経営不振に陥った企業は、限りある経営資源が分散しているため「選択と集中」により、企業が本来持っている経営資源を重点事業分野に集中し、収益性を回復させることが必要です。

経営不振の原因は、収益性の低迷と資産価値の毀損が互いに結びついており、事業と財務の両面から再構築を図る必要があります。

事業再構築

事業再構築は「選択と集中」が大きな骨格となります。重点事業分野ではないノンコア事業からの撤退により過剰な設備と人員の削減、それに伴う退職金制度の見直しなどを行います。

財務再構築

財務の再構築には外部機関の協力が必要となります。債務のリスケジュール、債務免除、DDS、DESなどの手法も含まれます。

中小企業は単一事業を営んでいることが多く、大企業と異なり、事業分野における「選択と集中」を大胆に行うことが困難になります。また経営者自身がオーナーであること、直接金融の手段がなく金融機関からの借入金調達が主体であることから、事業と財務のモニタリングが金融機関のみにとなることから、金融機関からの支援が重要となります。

中小企業の事業再生については、①手法の選択肢が狭いこと、②企業自身からの再生着手が遅れがちになること、の2点に注意し金融機関からの支援を伴う「早期着手」が特に重要になります。

 

早期着手と迅速処理の重要性

事業再生は事業運営上に何か問題が認識されたときに、すぐに「内外の人材を活用して解決を試みる」というリスク管理プロセスの延長線上にあります。経営不振企業は新製品開発の遅れ・保有技術の陳腐化・過剰設備投資・事業投資意思決定の失敗・企業不祥事の発生によるブランドイメージの毀損といった問題に対して、リスク管理プロセスが十分に機能しなかったことにより、売上減少・利益減少・不良資産増加・資金繰り悪化・過剰債務状態といった症状が表出してきます。

早い段階で再生に着手することで、各ステークホルダーからの協力が得やすい、様々な再生ツールの選択・活用が可能になります。早期着手により事業再生が成功する可能性が高くなります。

キャッシュフロー経営

事業再生の取組のなかで、企業の経営管理指標として「キャッシュフロー関連指標」を活用します。

キャッシュフローとは「本業からどれだけのキャッシュを稼いだか」「設備投資や運転資金にいくら使ったのか」「税金・利息はいくらか」「借入金の増減」などという資金の流れのことを指します。キャッシュフローの利点は、会計上の利益が会計処理方針によって変動するのに対し、現金自体は残高として確定しているため、実質的な数字が把握できることです。

しかしキャッシュフローだけ気にしていればOKというわけではありません。業績悪化時には債権の回収段階に入るため、一時的にキャッシュフローが改善するという傾向があり、キャッシュフローの変調ばかりに気を取られてしまうと、事業の変調を見逃してしまう懸念もあります。

キャッシュフロー経営とは、「従来の指標も当然に管理対象としながら、その限界を補完するキャッシュフローベースの指標にも着目していこう」という発想です。現在あらゆるステークホルダーに共通した企業の価値は「企業が将来生み出すことが予想されるフリーキャッシュフローの現在価値」と言われています。伝統的な指標をキャッシュフローベースの指標を通じて企業価値と連動させることが、キャッシュフロー経営の目的です。

代表的な経営管理指標

経営管理指標には、事業投資や撤退の意思決定のための将来予測評価のために用いられる指標と、過去の実績を評価するために用いられる指標があります。代表的なものを下記に挙げていきます。

収益性
  • 将来予測評価…IRR、NPV
  • 過去実績評価…EVA、CFROA、EBITDA、FCF
安全性
成長性

早期着手という観点からは、過去の業績評価指標が重要です。過去からの傾向値を捉えて原因を追求し対策を講じる必要があります。

 

再生のフレームワーク

収益性の回復

売上の増加(or減少のストップ)、費用の削減による利益の回復を図ります。これによりキャッシュフローの改善に取り組みます。

短期的には自社製品の競争力や収益性を分析し、採算性の低い製品についてはラインナップを絞り込みします。長期的にはマーケティング戦略を再度点検し、開発・製造・販売・流通・回収といった事業サイクルにおける体制強化のための管理体制と教育を徹底していきます。

費用のコントロール

損益分岐点分析により変動費と固定費を分析します。同業者のデータを参考にし、時系列のデータを持って動態的に分析することが重要です。

変動費の改善案

  1. 製品の構成を見直し、部品点数を減らす。部品の形状を見直し、より原料の使用の少ない部品の開発
  2. 購買先を評価しランク付し、重要な評価項目として価格を織り込むことで仕入れ単価・外注単価を引き下げる
  3. 標準原価を導入し原価を徹底管理し製造原価を低減する

固定費の改善については、従業員のリストラ、スタッフ機能のアウトソーシング活用などが検討できるが、組織全体の士気に悪影響を及ぼす可能性もあり、慎重な対応が必要です。

事業再編

損益改善・キャッシュフロー改善努力にも関わらず、十分な回復ができず、より大胆な改革が必要になった場合に、事業再編(遊休不動産の売却、共同事業の統合、M&Aなど)を検討していきます。

事業再編のステップ

まずは事業の適切な分類と事業価値の評価を行います。切り出された各事業について、現在の投下資本と今後の投下予定資本、創出されるキャッシュフローから合理的な事業価値を算出していきます。

どの事業をコア事業・ノンコア事業とするかを決定し、コア・ノンコア事業の中でさらに複数の事業分野がある場合は成長分野・成熟分野・衰退分野・可能性分野に分類します。分類された各事業について事業間のシナジー効果も考えながら、企業価値を最大化するための事業の選択と集中を判断します。

資源を集中する分野においては事業統合・新規資金調達をし、縮小・撤退をする分野については各種M&Aを比較して再生方針に最も合致した手法を選択します。

再編後の事業運営を成功させるためには、戦略と戦術を明確にし準備を進めることが重要です。単に不採算部門を切り離す会社分割をしても、本業の収益が悪い場合にはこれを回復させるための再建計画がなければ本来の再生の目的は到底到達には至りません。

 

迅速処理による事業再生

損益・キャッシュフローの改善のための収益性向上のための努力や、資産売却等による有利子負債の圧縮努力を行い、各種手法を用いた事業再編にも関わらず、なお再生が果たせない場合、企業はいよいよ窮境状態となります。

この段階では事業価値の劣化が激しく、実質債務超過の状態であり、財務リストラを含めた抜本的な計画策定と実行が求められます。この場合の再生計画では利害関係者の権利変更が織り込まれるため、計画の妥当性・債権放棄等の衡平性・債権放棄に応じる利害関係者の経済合理性などが求められ、調整に長時間を要します。再生のためのツールとしては「法的整理」と「私的整理」の2つがあります。

私的整理

私的整理を行うには、債務者企業の置かれている現状の徹底的な調査(過去の財政状態・経営成績の推移・外内部環境・窮境原因・再建可能性)を行います。その後財務リストラを含む再生計画の策定が行われることになります。その際には弁護士・公認会計士・税理士といった専門家を利用することで、公正かつ迅速な処理が可能となります。

私的整理は法定の手続きを取らずに、主に金融機関の合意で債権放棄などを行う可能性を検討します。

私的整理のメリット

  • 法的整理に比べて迅速な解決が可能となる
  • 水面下の交渉で検討されるため事業価値の毀損が少ない
  • 債権者にとっても、法的整理と比較し回収額が多くなるといった経済合理性がある可能性
  • 金融機関以外の債権者の債権は全額弁済され、従業員のリストラの規模も法的整理と比較し少なくなる可能性もあり、社会的なメリットは大きい

しかし私的整理には法的な拘束力がないため、一部の債権者に対する偏頗弁済や詐害行為によって衡平性に欠ける危険性があるほか、債権者全員の同意が必要になるため合意に長時間を要することもあります。

法的整理

法的整理の場合、再生計画認可まで通常は民事再生で6ヶ月、会社更生で1年の期間を要することになります。そこであらかじめ主要な債権者と権利変更について実質的に合意を得たうえで申し立てを行い迅速に手続きを終了する、プレパッケージ型法的整理という手法が利用されることがあります。

プレパッケージ型民事再生手続

DIP型を採用しており、経営者は再生手続開始後も引続き事業経営権と財産処分権を有しつつ事業再生に取り組むことが出来ます。これにより経営者は再生手続開始前に自律的に進めていた事業再建計画を、民事再生のなかで実現していくことが可能です。

プレパッケージ型会社更生手続

事業再生に伴い、増資による資本構成の変更や会社分割・合併等の組織再編を伴う場合には、担保権者や株主も法的規制の対象となる会社更生による方が容易に実行が可能となります。

 

再生支援の金融制度の変化

キャッシュフロー融資慣行

バブル崩壊後に経済環境の悪化とともに資産デフレが進行し、不動産等を中心とした資産価値を担保とする融資慣行は、金融機関にとってリスクを高めています。金融機関がこうしたリスクを分散するため、「従来の信用=資産」ではなく「信用=事業価値または企業価値」というキャッシュフローに着目した融資慣行へと移行しつつあります。

リレーションシップバンキング

リレーションシップバンキングとは金融機関が顧客との間で親密な関係を構築し、企業の情報を得て融資等を行うビジネスモデルのことです。2003年3月に金融庁が公表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づき、①取引先企業の経営相談・支援機能の強化、②早期事業再生に向けた取組、③新しい中小企業金融への取組強化といったことが評価されました。

また2005年5月には、上記プログラムを承継するものとして「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラムを策定し公表しました。具体的なポイントは

①創業・新事業支援機能等の強化、②取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化

③事業再生計画に向けた積極的取組、④担保・保証に過度に依存しない融資、⑤中小企業の資金調達手法の多様化等、⑥顧客への説明大勢の整備、相談苦情処理体勢の強化、

⑦人材の育成となっています。

こうした地域密着型金融の従前からの取組を踏まえ、これをさらに拡充・強化したものとして2009年に中小企業金融円滑化法が成立・施行されました。

事業再生ファンド

日本経済を取り巻く構造変化により、従来型メインバンクの役割が相対的に低下しているなかで、事業再生ファンドの存在感や役割期待が高まっています。不良債権の売却先として、私的整理後の企業の財務内容安定化のためのエクイティの出し手として、既存金融機関では対応が難しい部分について、事業再生ファンド等が積極的な役割を果たしてきました。

また事業再生ファンドは、再生計画の実行フェーズにおいても、再生プロセスの管理者として、大きな役割を果たしています。再生対象企業の財務・事業リストラクチャリングに向けたマスタープランの策定から、当該プランの実行のサポートまで、対象企業に外部から経営者を招聘もしくはファンド自ら人材を派遣したうで、支援先の従業員とともに内部から改革を主導します。

事業再生ファンドにとっての最終的な出口は、支援先企業が自律的な回復軌道に乗り、企業価値が上がった段階で投資持分を売却し、資金回収をすることです。対象企業にとっては、ファンドの出口の際に、再度大株主が変更となる点において不安定な材料はのこるものの、企業価値の向上を図るという点においては、対象企業とファンドの利害は一致することになります。

サービサー

サービサーは金融機関の不良債権問題によって誕生しました。不良債権処理のための一つの方法として、債権管理・回収の受託業務を行うとともに、債権の買い取り業務を実施し、金融機関が抱える不良債権のオフバランス化に貢献してきました。最近では通常業務に加え、企業再生のサポートを行うサービサーも登場し実績も多数上げているようです。再生対象企業のノンコアの不採算事業の整理・コア事業の再生プランの立案、資金調達のアレンジなど、財務リストラクチャリングに向けた動きを総合的にサポートする動きを進めています。

 

事業再生に関連する公的施策・法整備

ここからは事業再生を支える法制度や公的施策についてまとめていきます。

事業再編などの法整備

純粋持株会社独占禁止法改正)

自ら事業を行わず、親会社が複数事業の株式を所有し、グループ全体の戦略や企画を行うことに特化した組織形態をあらわします。陣俗な事業構造の再構築が可能となるメリットがあり、事業ごとに会社が分割されることで、M&Aが行いやすくなりました。

株式交換・移転制度

会社がその完全親会社を設立するための制度です。完全子会社となる会社の株主が、完全親会社となる会社の新設をするために、保有する株式を拠出する代わりに、完全親会社の株主となります。グループ内純粋持株会社の設立や、事業統合における兄弟会社化に活用が検討されます。

・会社分割制度

既存の会社の事業または一部を他の会社に包括的に承継させる制度です。株式交換・移転及び会社分割制度は、いずれも従来の法制度上の障害を克服し、事業再編のための手続きを大幅に簡素化した制度となります。

・組織再編税制、連結納税制度

合併、会社分割、現物出資、事後設立に関して従来課税されていた資産の移転、株式の譲渡などが、一定の要件を満たせば非課税で行えるようになりました。

・自己株式取得の原則解禁(金庫株の解禁)

資本の出し入れが容易になりました。株価低迷時に安値で自社株を買い、株価回復時に株式交換や高値で流通させることも可能となりました。

倒産法制など

民事再生法の制定

和議法に代わり制定。破産原因がなくとも手続を始めることができるよう開始原因を広くし、再生計画案可決の多数決要件を緩め過半数とするなど、さまざまな点で使いやすい制度となりました。

・私的整理ガイドランの公表

このガイドラインによる私的整理がはじまると、金融機関など対象債権者の権利行使は一時停止されますが、一般の商取引債権の支払や決済は停止されません。一定の要件を満たせば、金融機関の債権カットのみのため上場廃止にならないというメリットもあります。

会社更生法・破産法の改正

民事再生法があらゆる法人・自然人に手軽に利用できる手続であることに対して、会社更生法は大企業向けを想定し、株式会社だけに適用されます。

・事業再生ADRの開始

民事再生法会社更生法の申し立て前に、当事者間での債務調整が難航するケースが多いことから整備されました。簡易かつ迅速な私的整理手続となります。

政府系機関等による支援

産業活力再生特別措置法

事業再編のための計画を立案して経産省の認定を受けると、事業再構築計画を実行にうつすために税制等便利な複数の特例が適用されます。

整理回収機構(RCC)

住宅金融債権管理機構整理回収銀行の合併により設立されました。信託機能および買取機能を活用した、中小零細企業の再生スキームを創設しています。

サービサー

法務大臣の許可を得た債権回収会社は、委託を受けて金融機関等が有する貸金債権または譲り受けた貸金債権の管理回収業務をおこないます。

産業再生機構IRCJ)

有用な経営資源を有しながら、過大な債務を負っている企業に対し、事業再生支援をすることを目的とします。債権買取、資金の貸し付け、債務保証、出資などの業務を行います。2007年に解散。

中小企業再生支援協議会

産業再生機構が大企業を対象としたのに対して、中小企業を対象としています。専任の再生専門家を配置し風評リスクに対する抵抗力の弱い中小企業の実態に即し、守秘義務を厳守のうえで、公正中立な立場から再生に必要な助言や再生計画策定支援を行います。

企業再生支援機構(ETIC)

2007年に解散した産業再生機構の後身となります。

金融機関による支援

・リレバン・アクションプログラムの恒久化

各地域金融機関で、経営改善支援、事業再生などライフサイクルに応じた取引先企業の支援強化などが共通に引き続き求められることになりました。

公的資金繰り支援・中小企業金融円滑化法

金融検査マニュアルの弾力化、貸付条件の変更に応じる努力義務を課していました。