まぐ太の金融と経営の扉

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倒産法と事業再生 ~事業再生③~

「倒産」という言葉はよく耳にします。しかし「倒産」を厳密に定義すること(どの時点で倒産というか)は困難です。おおまかには、債務者が従来の経済活動や経済生活を維持しながら、弁済期にある債務の大部分を返済することが困難な状況に陥っている状態を「倒産」や「倒産状態」であると考えられます。

より具体的には、手形の不渡り、夜逃げ・店じまい、支払停止、破産・民事再生・会社更生手続開始の申立て、などの行為により「倒産した」と言われることが多いです。

企業の倒産は様々な原因によって引き起こされます。内在的な原因としては、①設備過剰、②放漫経営、③合理化の立ち遅れ、④技術革新競争による敗北、⑤労働争議などがあります。外在的な原因では、①国際経済の急変、②国内の産業政策の転換、③深刻な不況などが考えられます。また1つの企業が倒産すると、その債権者が自己の債務の返済資金として予定していた債権の回収ができなくなる結果、同様に倒産に至る「連鎖倒産」が生じる危険性もあります。

倒産手続の目的

このように企業の倒産という事態は、関係者にとって不幸なことですが、社会全体という観点からは、当該企業には不健全な経済活動を止め、企業を解体・清算したり、健全な形での再出発を促したり、当該企業の経営破綻による関係者への損害を最小限に食い止め、総債権者に対して公平かつ最大限の満足を与えるための制度が必要になります。これが企業が倒産した場合に倒産処理手続が必要とされる理由であると思われます。

法的倒産処理の必要性

倒産という現象は、社会活動の中で必然的に生じるものであり、古くから自然と生まれてきました。今日のように再建型倒産手続が整備されていなかった時代には、多くの倒産事件が債権者と債務者とが任意に協議をする私的整理によって処理されてきました。それにも関わらず、法的整理手続が設けられているのは、多くの私的整理で下記のような点で限界があるからだと考えられます。

  • 債権者間の公平の確保
  • 債務者の詐害行為の防止
  • 不正な目的をもった第三者の介入の排除
  • 大規模倒産事件の処理
  • 不良債権整理の必要性

法的整理手続の分類

法的整理手続は大きく「清算型」と「再建型」に分けられます。

清算型手続きは、債務者の全財産を換価して、総債権者に債権額に応じて分配します。当然に事業解体、会社の解散・消滅を導きます。

再建型手続きは、債務者の事業の収益力を向上させ、他方でその債務を向上させた収益力で支払える範囲に圧縮することで、その支払い能力を回復させ債務者を経済市場に戻す。

 

清算型倒産手続

清算型倒産手続は破産手続、特別清算に分けられます。

破算手続

破産手続は債務者の種別に関わらず、広く適用される一般的な清算型手続です。

破産手続は破産手続開始決定と同時に裁判所によって弁護士の中から選任される破産管財人が、裁判所の厳格な監督下で得た破産財団を管理・処分して得た金銭を、総債権者にその優先順位に従って公平に分配していく管理型の清算手続となります。

換価金を債権者に康平に分配するという破産手続の目的は、企業の企業・事業者には妥当しますが、個人債務者の破産の場合には実際は配当原資となる財産が殆どなく、債権者に配当がなされるのは珍しいことになります。

破産手続きは破産手続開始原因(支払不能債務超過)が存在するときに、債務者会社自身、取締役、債権者の申立てに基づき、裁判所が発令する「破産手続開始決定」により開始します。

破産手続の手続機関には破産管財人、債権者集会、債権者委員会などがあります。

個人破産

個人破産は2003年に24万件超の破産手続開始決定がありました。その背景には消費者金融・割賦販売・ローン提携販売・クレジットカードによる信用取引が、一般に広くかつ急速に浸透したことが要因の一つであると考えられます。

個人が破産した場合に、その経済的更生のために重要な役割を果たすのが、免責許可決定によって破産債権につきその責任を免除する破産免責制度です。破産免責制度には更生手段説と特典説があります。

更生手段説

不誠実でない債務者の更生手段とみる考え方。個人債務者の破産を消費者信用の膨張に伴って必然的に生じる現象と捉え、多重債務に陥った債務者を経済的に更生させるため、積極的に破産免責を運用すべきであるとする。

特典説

誠実な債務者に対する特典という考え方。消費者信用が膨張する中でたとえ個人債務者が多重債務に陥ったとしても、その責任は基本的に債務者本人にあり、安易な免責付与により債務履行についての責任感を失わせるのは好ましくないとする。

特別清算手続

破産手続が債務者の種別を問わずに適用される一般的な清算型手続であるのに対し、特別清算は既に解散し清算手続に入っている株式会社に適用することを予定した清算型倒産処理手続です。

通常清算の手続きに入った企業に、債務超過の疑いや、清算に支障をきたすような事情が明らかとなった場合、債権者や株主といった利害関係者の対立が生じてきます。このような場合に、裁判所の監督のもとに、従前の清算人が専ら債権者との交渉に基づいて作成する「協定」を軸として進める特別の清算手続となります。特別清算は利害関係人によっる自治が重視されており、破産と比較するとはるかに簡易で柔軟な清算手続となります。ただ特別清算はあくまでも清算手続の延長、通常の清算手続を厳格化した特殊な清算手続であり、破産手続の特別手続ではありません。

特別清算の手続開始原因は、①会社の清算事務の遂行に著しい支障をきたすべき事情があること、②会社に債務超過の疑いがあること、です。「債務超過の恐れ」「支払不能」はその事実が発生した時点では会社が事業を継続していることが前提の概念であるため、既に解散し清算の株式会社を前提とした特別清算では、手続開始原因とはなりません。

手続機関には清算人、清算会社の行為制限・監督委員、調査委員、債権者集会などがあります。

 

再建型倒産手続

民事再生法とは

従来の和議手続のもつ債務者主導の簡易な手続としての性格を維持しつつ、和議手続の欠陥をできる限り是正する形で創設された、再建型の一般手続としての民事再生手続に関する基本法です。

通常再生手続

民事再生手続の対象となる債務者の範囲については特段の制限を設けていません。医療法人や学校法人、個人事業者も利用が可能です。民事再生手続は、債務者に再生手続開始原因があり、申立権者による適法な申立がなされ、かつ申立棄却事由が存在しないときに裁判所の手続開始決定によって開始しますが、裁判所が職権により再生手続を開始することはありません。

再生手続開始原因
  1. 破産手続開始原因たる事実(支払不能債務超過)が生ずるおそれがあるとき
  2. 債務者が事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき
再生の3パターン
  1. 再生手続では債務者自身が再生手続開始後も、そのまま業務の遂行及び財産の管理処分を継続しながら事業の再建を目指すDIP
  2. 監督委員による監督を命ずる監督命令を発令し、監督委員の監督下で再生債務者が事業の再建を図る方式
  3. 再生債務者が法人の場合で、現経営陣にそのまま業務の遂行・財産の管理処分を委ねることが不適切な場合には、開始決定前に保全管理命令を発令し、保全管理人に再生債務者の業務遂行・財産の管理処分を委ね、開始決定後に引き続き管理処分を委ねる管理型
再生計画

再生債務者の事業の再建には、原則として債務者自身が作成した「再生計画」と呼ばれる再建計画に従って行われます。再生債務者等は、再生計画案を裁判所の定める期限内に提出します。

しかし、再生債務者たる株式会社が債務超過の状態で、再生計画の認可までに事業の価値が劣化が著しく、事業の維持・継続に支障が生じる場合は例外的に手続き開始後再生計画によることなく、かつ株主総会の特別決議がなくても、裁判所の許可だけで第三者に事業譲渡を行うことができます。

個人再生手続

消費者信用制度の国民への浸透という構造的要因に加え、バブル経済崩壊後の長引く景気低迷などが重なり、個人破産申立件数は増加傾向でありました。個人再生手続はこのような状況下で、従来の法的倒産手続間にある間隙を埋め、個人の経済生活の再建のために選択しうるメニューを多様化させるために導入されました。個人債務者はこの手続を利用することで、通常の民事再生手続より簡易・合理化された手続で、破産手続の利用による不利益を避けながら、また他方で、民事調停では得られない強制力ある弁済計画を立てることを目的として導入されています。

個人再生手続の概要

個人債務者のために特化された再生手続としては、小規模個人再生と給与所得者等再生があります。

小規模個人再生

零細事業者を含む個人に対する特別の再生手続です。対象者は、将来において継続的または反復的な収入の見込みがあり、かつ無担保の再生債権総額が5,000万円未満の個人債務者です。再生計画は再生債務者のみが提出します。

給与所得者等再生

サラリーマン、OLが対象となります。小規模個人再生との共通点が多いですが、一定の弁済額を確保することを条件にして、再生債権者の決議自体を省略する点が最大の特徴です。よって弁済計画による弁済がその収入に照らして合理的かつ最大限のものであることが客観的に確認できるものですなければなりません。

民事再生法による民事再生手続は通常再生、小規模個人再生、給与所得者等再生の順で、手続を利用できる債務者の範囲が狭められている。

会社更生手続

会社更生は、株式会社に特化した再建型の倒産処理手続です。事業の維持・再建に向けて強力かつ豊富な手段が整備されされている制度となります。

会社更生法の特徴は、大規模な株式会社の迅速かつ円滑な再建を可能とするため、更生手続の迅速化及び合理化を図るとともに、再建手法を強化し、現在の経済社会に適合した機能的な手続きに改めた点になります。

会社更生手続と民事再生手続との間には、担保権や租税債権などの処遇につき歴然とした違いがあります。しかし民事再生手続でも管財人が選任されるケースや、DIP型会社更生手続の導入、会社更生手続の利用会社の小規模化など、実際の運用の場面での両手続の差は小さくなってきています。

更生手続の開始原因
  1. 破産の原因たる事実が生じるおそれがある
  2. 事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができない
手続機関
  • 更生管財人
  • 関係人集会
  • 更生債権者委員会・更生担保権者委員会・株主等委員会
更生計画案

更生計画案は、更生管財人が立案し裁判所に提出するのが普通でありますが、会社・更生債権者・更生担保権者・株主も、独自の計画案を提出することができます。

更生計画案が裁判所に提出されると、更生計画案について決議が行われます。法廷多数決にて可決され裁判所が認可すると、更生計画の効力が生じ、各関係人の権利は更生計画が定める内容に変わり、もとの権利はなくなります。

 

裁判外の倒産処理手続

法的整理手続は、多かれ少なかれ債務者に倒産企業ないしは破産者の烙印を押し、その再生を困難にするという要素を抱えています。そこで裁判外の(合意による)より緩やかな手法による倒産処理が求められています。裁判外の倒産処理は私的整理と倒産ADRとに分かれます。両社は中立的な第3者が手続きに介在するかによって区別されます。中立的な第3者が介在する場合を、倒産ADRと呼んでいます。

 

私的整理

私的整理とは裁判外で(合意により)、債権者と債務者とが任意に協議をして債務整理をすることです。ながく多くの倒産事件が私的整理により処理されてきました。私的整理では私的自治の原則が支配し、法定の手続が決まっているわけではありませんが、一応の手続慣習が事実上出来上がっています。私的整理では、利害関係人による話合いとそれを踏まえた債権者委員長や弁護士の創意・工夫により各事件の個性に合わせた弾力的な処理を行うことができるのが特徴です。

私的整理の課題

私的整理はうまく行われれば理想的な倒産処理が実現できますが、以下のような課題もあります。

  • 手順が法定されていないため、透明性や予測可能性の点で限界がある
  • 裁判所の監督がなく、保全処分、強制執行の停止、否認権などの、手続を適正に担保するためのシステムが全く備わっていない。
  • あくまでも債務者と債権者の合意に基づく手続であることから、両者の交渉が必ずしも透明なものとは限らない。
経営者ガイドライン

私的整理には多くのメリットがあるものの、手続の透明性や予測可能性の限界により、実際に債務者企業の実情に沿わない安易な債権カットや問題の先送りに留まるケースもありました。

そこで金融機関の不良債権処理と企業の過剰債務問題を一体的・抜本的に解決するため、「私的整理ガイドライン」が策定されました。私的整理ガイドラインは、複数の金融機関に対して返済困難な債務を抱えた企業のうち、過剰な債務をある程度軽減することで再建できる可能性のある企業を救済するため、債務者企業と複数の金融機関が協議したうえで、債権放棄やデット・エクイティ・スワップなどの金融支援を行い、公明正大で透明性のある私的整理を行うための手続準則のことをいいます。

基本的には資金繰りに窮する以前よりも早い段階で私的整理に着手し、迅速に事業再生を目指すものであり、商取引債権を毀損することなく、通常の営業を維持することが当然の前提とされています。

倒産ADR

裁判外で中立公正な第三者の関与によって、債務者の倒産処理、事業再生を目的として再建契約や債務調整の合意を測っていく手続をいいます。簡易迅速性・柔軟性・秘密保持性・当該企業の事業価値の毀損を防ぐことができます。

倒産ADRには、介在する中立的第3者の設営者・運営者の属性に応じて①司法型、②行政型、③民間型の3種類があると言われています。

司法型倒産ADR

従来からある民事調停法のもとで、事実上、倒産処理手続としての機能を営んできた、債務弁済協定調停の機能を充実・強化する目的で行われます。

行政型倒産ADR 

中小企業再生支援協議会が行う倒産ADRで。産業再生機構と異なり、金融債権の買取などはなく、あくまでも中立的な第三者としての立場で債務者の事業再生に関与する。

民間型倒産ADR

特定認証ADRのことをさします。基本スキームは私的整理ガイドラインの事業再生スキームに依拠したものですが、特定認証ADRでは特定認証ADR事業者があくまでも中立的な第3者として債務者の事業再生に関与するという点では、私的整理ガイドラインに基づく事業再生とは決定的な違いがあります。