最近はコロナウイルスの第7波が到来したとも言われ、コロナによる経済への打撃は大きく、いまだ影響を計り知ることは難しいと思えます。中小零細企業では、コロナウイルスによる無利息型融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」を利用して資金繰りを回している企業も多くあると思います。すでに返済が開始となっている企業、これから返済開始となる企業など、経済情勢が不安定なかで経営の舵取りを行わなくてはなりません。場合によっては、金融機関と交渉が必要になることも出てくるかもしれません。
今回は決算書における財務3表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)を用いた分析について書いていきます。
財務は単なる数字と思わずに、経営の一つの指針とすることで、企業経営が好転する可能性も多く秘めていると私は思います。融資審査において金融機関が決算書のどこに着目しているのか、についても散りばめながら書いていきます。
財務分析とは財務諸表のデータから、企業の経営成績や財務状態を測ることです。企業の収益性・生産性・安全性・成長性などを知ることができる他、企業がどのような業務で利益や損失を出しているのか、支払能力や倒産リスク、今後の成長性などが見えてきます。
企業のみならず、その企業の業界情報などから事業環境(マクロ面)や業界企業の現状(ミクロ面)といった必要な情報を集めることも大切です。
財務分析の方法
財務諸表の分析には「実数分析」と「比率分析」という2種類の分析方法があります。
- 実数分析…財務諸表に記載されている数値をそのまま用いて分析する手法。売上高や販売数量の増減など、「量」に関する分析をするのに適している。
- 比率分析…自己資本比率や経常利益率など、財務諸表の数値をもとに様々な比率を求めて行う分析手法。比率をもとに分析することで、事業の収益性や安全性など可視化できない要素を客観的に把握できる。
財務分析における着眼点や指標は複数ありますが、企業の財務をおおまかに把握するためには、「売上高」「経常利益率」「総資本」「自己資本比率」の4つについて、業界平均との比較をすると効果的です。「売上高」は企業の競争力、「経常利益率」は利益獲得力、「総資本」は企業体力、「自己資本比率」は安全性を示しています。
財務分析の概要
「異常な兆候」を探す
収益性や安全性、成長性といった、財務上の「主要比率」について「時系列分析」と「業界平均との比較分析」を行います。その中で「前期より大きく変動した項目」「業界平均と大きく乖離している項目」について、そうなった原因を分析します。
その原因が特殊要因ということであれば、正常な状態における数値へと修正し、改めて分析を行い、実態と本質的な問題を把握します。
注意点
- 恒常的か、一時的かの見極め
- 異常原因の分析と把握
異常な兆候を発見したら、それが「恒常的」なのか「一時的」なのかの見極めが重要となります。また、原因についても正確に捉える必要があります。
分析指標の選択
財務分析は、目的やニーズによって活用する指標や分析内容が異なることが多くあります。「企業を将来どのようにしたいのか」、「財務上の強みや弱みはどこなのか」など、必要とする目的に合った的確な分析や評価を行うことが重要になります。
決算内容についての理解
財務分析指標については、一概に「何%であれば良い」というものでもなく、企業の課題や強み・弱みを認識するのことが大切です。財務分析とは「過去の数値を用いたものであり、数値だけでは将来予測の精度に限界があることを忘れてはなりません。そのため財務分会計以外の要素や情報についても収集しておくことが大切です。
貸借対照表の分析
貸借対照表の分析については、まず「資産合計」を確認します。総資産は企業の財務的な規模を表しています。続いて「負債」と「純資産」のバランスによる健全性を確認します。
安全性の分析
安全性の分析とは、企業の支払い能力を表すもので、倒産リスクを確認できます。返済能力として金融機関からも注目度の高い項目です。「長期的安全性」は企業の持続力、「短期的安全性」は当面の資金繰りを表しています。
安全性に対する金融機関の視点
金融機関が重視するのは、安全性の指標であることが多いです。そのため「自己資本比率」「固定比率」「固定長期適合率」の3項目を業界平均レベルまで高めることが大切です。
自己資本比率
資本金や利益剰余金で構成されており、返済義務はありません。つまり返済不要の資金割合が高いことを意味しており、景気変動への抵抗力や競争力が強く、長期的な財務面の安定性が高いといえます。一般的には30%超が望ましいとされています。
固定比率
固定比率(%)=(固定資産÷自己資本)×100
固定資産が自己資本によってどの程度賄われているか、という固定資産に使用されている資金の安定度を測る指標です。「工場や機械設備といった固定資産を取得するために使用された資金の回収は、これら固定資産を活用し事業収益」によって行われます。そのため、固定資産の取得に使用される資金は、返済義務のない自己資本によって賄われるのが望ましいです。
この比率が低いほど、長期的な財務安全性が高いと言えます。一般的には200%を超えると危険水域と言われています。100%以内が理想であり、120%以内なら健全、とされますが、中小企業でこの水準をクリアするのはハードルが高いのが実情です。
固定長期適合率
固定長期適合率(%)=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100
固定資産へ投下した資金が「自己資本」と「長期借入金を中心とした固定負債」という長期的に安定した資金によってどれだけ賄われているかを見る指標です。
先ほど述べたように、固定費率の基準は中小企業の実態にはそぐわない為、この固定長期適合率を用いることが多いです。固定費率が100%を超えていても、固定長期適合率が100%以内であれば健全とされます。100%超となると、過大設備、過小資本、長期資金の調達不足を意味しており、資金の長期的安定性が必要となります。
借入債務にかかわる指標
債務償還年数
債務償還年数(年)=有利子負債÷営業利益。または、有利子負債÷営業キャッシュフロー
現状の有利子負債(短期借入金・長期借入金等)を何年間で返すことができるかをみるための指標です。
借入金対月商比率
借入金対月商比率(月)=有利子負債÷平均月商
有利子負債の多寡を平均月商との比較で検証し、企業の収益力や資産規模に比べ有利子負債の割合を見ていく指標です。
借入依存度
借入依存度(%)=(有利子負債÷総資本)×100
企業が保有する資産のうち、外部からの借入金によって賄われている部分の割合を示す指標です。この比率が高いと、借入金の返済による資金繰り負担や、金利上昇の影響を受けやすいと言えます。
有利子負債比率
有利子負債比率(%)=(有利子負債÷株主資本)×100
総資本利益率の低さに対し、有利子負債が急増する場合などは、支払利息負担が重くなり、事業リスクが増大するため、警戒が必要になります。
企業の長期的安全性と事業戦略
企業が安定した経営体質を確立するためには、安全性の指標向上が重要ですが、その具体的方法・方策については、企業の長期的な事業戦略を考慮したうえで対策を立てることが肝要です。
例えば、積極的な事業展開を長期戦略としている企業は、増資などにより純資産を増強したりします。逆に衰退期にある企業は投資を抑制し、余剰資産の削減等による固定資産と債務の圧縮をはかることが必要になります。このように事業の長期的見通しと戦略を考慮し、慎重な検討を行うことが大切です。
流動比率
「流動比率」は短期的な支払能力を分析する際における指標の一つです。短期的債務である流動負債を返済する力がどれだけあるか、運転資金のゆとりを示す代表的な指標です。この比率が高ければ、負債を返す力が大きいということになり、当面の支払能力に問題はないと判断できます。
流動比率は一般的に120%から140%程度あることが望ましいとされています。この比率が100%を下回ると短期的な支払が苦しくなり、安全性が懸念される事態であると考えられます。同業他社の数値と比較分析をし100%を下回る状況が続くようであれば、「増資による自己資本の増強」や「短期借入金の長期借入金への借換」などを検討する必要があります。
当座比率
当座資産は流動負債を返済する財源として、当座資産を使用し計算した場合の即時返済能力を表す指標です。
当座資産とは比較的短期間のうちに容易に現金化できる流動資産で、現預金・受取手形・売掛金・市場性のある有価証券などが含まれます。その為、当座比率は流動比率と比べ、より現金に近い指標となり、100%を上回っていれば支払能力が高く、80%が望ましいとされています。
運転資金の分析
正味運転資金
「正味運転資金」とは流動資産から流動負債を差し引いたものです。正味運転資金が潤沢にあれば、一般的に資金繰りは余裕があると言えます。
経常運転資金(正味営業運転資金)
経常運転資金(正味営業運転資金)=売上債権+棚卸資産−仕入債務
「経常運転資金」とは、企業が正常な営業を継続するために必要な資金を表しています。この金額は業種や各企業の状況によっても異なります。
売上債権・棚卸資産の指標
過大な棚卸資産や回収困難な債権は、利益に大きな影響を及ぼすだけでなく、劣化や陳腐化リスクの高止まりによって、貸借対照表を実態面から悪化させる危険があります。このため棚卸資産の保有量が適当か否かを検討することは重要なポイントになります。
棚卸資産に関わる指標
事業の評価や戦略の検討にあたっては、在庫管理に関わる分析が極めて重要になります。
棚卸資産回転期間
保有している棚卸資産が、売上原価の何ヶ月分かを示す指標です。短いほど良く回転していることを表しています。
棚卸資産構成比率
総資産のうちに棚卸資産がしめる割合を表しています。
在庫の合理化は「店舗の商品管理レベル」と「品切れによる機会損失」を十分に考慮し具体的な方策を決定することが大切です。
債権・債務にかかわる指標
売上債権回転期間
売上債権回転期間(月)=売上債権÷平均月商
売上債権が平均で何ヶ月で回収されているかを表しています。長い場合は、不良債権の発生や回収条件の妥当性を検証する必要があります。
仕入債務回転期間
仕入代金の支払状況を表す指標です。長いほど支払いは楽になりますが、デメリットとしては一般的に仕入価格が不利になる傾向があるため、同業平均との比較や時系列分析によって妥当性を判断します。
損益計算書の分析
一般的な着眼点
売上総利益率
売上総利益率が変動している場合、原価の内訳を費用ごとに分析します。
販売管理費
人件費の多寡や多額の経費項目の妥当性及び合理化の可能性を検証します。
製造原価中の労務費等の固定費推移
売上高の変動に対し、弾力的な対応ができているかを検証します。特に売上減少局面においては固定費が主要なコストアップ要因となり損失発生の原因となるケースもあります。
材料費比率
材料費比率(%)=(材料費÷売上高)×100
時系列分析・同業比較分析を行い、コストアップや歩留まり悪化の可能性を検証します。
外注費比率
外注費比率(%)=(外注費÷売上高)×100
時系列分析・同業比較分析を行い、大きく変動している場合には、内容と原因を確認し、内製化の可否、妥当性の検証を行います。
収益比率による分析
総資本経常利益率
総資本経常利益率(%)=(経常利益÷総資本)×100
収益性を表す代表的な指標です。高いほど良いとされています。
総資本回転率
総資本回転率(回)=売上高÷総資本
「総資本が何回転したか」によって資産の活用状況を表しています。低い場合には不良資産や有休資産の有無、資産内容を確認します。
営業利益率
営業利益率(%)=(営業利益÷売上高)×100
通常の営業により獲得した営業利益の売上高に対する割合を表しています。
経常利益率
経常利益率(%)=(経常利益÷売上高)×100
経常的な企業活動の収益力を表す指標です。
営業費比率
営業費比率(%)=(販売費及び一般管理費÷売上高)×100
売上総利益率の70%が望ましいとされていますが、業種により異なるため、中身を個々に検証する必要があります。
従業員一人当たり売上高
従業員一人当たり売上高=売上高÷従業員数
労働生産性を表す代表的な指標です。
従業員一人当たり人件費
従業員一人当たり人件費=総人件費÷従業員数
人件費の水準の妥当性を調べるため、時系列分析・同業比較分析を行います。
労働分配率
労働分配率(%)=(人件費÷加工高)×100
加工高=生産高-外部購入価格(材料費、外注費など)
加工高に占める人件費の割合です。高くなると利益を圧迫することになります。
成長性の検証
売上高が、時系列分析において増加していたり、同業比較分析を行い多いということは、それだけ企業の競争力が高いことを表します。
成長性とは売上の増加、利益の増加、資本の増加など、様々な考え方があります。また成長性には中身の確認が欠かせません。一時的なのか恒常的なのかを調べる必要があります。
設備投資の考え方
設備投資と経済情勢
「過ぎた設備投資は命取りになる」と言われますが、生産能力の増大を狙った「拡張投資」を行うケースについては、設備投資後の一定期間において売上などが伸びていなければなりません。設備投資をしても受注や売上が伸びていかないと、その設備投資に伴う費用が重くのしかかり、事業継続上の課題となる場合もあります。
設備投資を財務面から考えると、設備投資を行うと固定費(減価償却費、労務費、支払利息等)が増加し、損益分岐点が上昇します。そのため売上高が一定以上に増加しなければ、損益面・資金面でも厳しい状況になってしまいます。
設備投資の適正化を測る指標
- 有形固定資産構成比率
総資産の中に占める有形固定資産の割合を示すものです。この割合が高い場合、好況で生産量が増加している時期は大きな優位性を生み出しますが、不況期においては重荷となります。同業他社と比較分析を行い、大きく乖離しているようであれば、稼働状況を検証する必要があります。
有形固定資産構成比率(%)=(有形固定資産÷総資産)×100
- 有形固定資産回転率
有形固定資産の活用状況を示します。有形固定資産がどれだけ売上を獲得する力があるのかを判断できます。
有形固定資産構成比率が高くても、この有形固定資産回転率が業界平均以上であれば問題はないと言われています。
有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産
インタレスト・カバレッジ・レシオ
「インタレスト・カバレッジ・レシオ」とは、営業利益と金融収益(受取利息・配当金など)が、支払利息をどの程度上回っているかを示し、企業の財務体質の健全性を評価する要素の1つです。この比率は企業の金利負担能力を図る指標として用いられ、高いほど財務的に余裕があることになります。
ただし、成長過程の企業においては、借入金をしてでも事業拡大をすることが必要なことがあるため、この比率の妥当性については、事業のライフサイクルを考慮することが重要です。
インタレスト・カバレッジ・レシオの評価
インタレスト・カバレッジ・レシオが1倍を下回ると、事業収益から借入金等の利息を支払う力が無いことになるため、早急に改善策を講じる必要があります。
インタレスト・カバレッジ・レシオの改善策
事業利益の増加、金融費用の削減がポイントになります。
事業利益増加には、利益率の改善や人件費や経費の圧縮、効率化を図ります。
金融費用の削減は、借入金の圧縮、回し手形等による割引料の減少などが検討材料になります。
キャッシュフロー分析
かつての金融機関の与信審査では「損益計算書による利益」と「担保などの保全状況」が大きなウエイトを占めていました。しかし近年ではキャッシュフローの重要性が増してきています。企業にとっても、キャッシュフローの創造力は事業存続の成否の重要な要素となります。
ここではキャッシュフローを使った分析指標をあげていきます。
収益性の指標
キャッシュフローマージン
キャッシュフローマージン(%)=営業キャッシュフロー÷売上高×100
本来の営業活動により、どれだけの営業キャッシュフローを稼ぎ出したかを表す指標です。時系列分析によりその推移と水準を分析します。
利益割合
利益割合(%)=当期純利益÷(当期純利益+減価償却費)×100
「営業活動によるキャッシュフロー」の主要要素である当期純利益と減価償却費の割合を見る指標です。これにより企業の「営業活動によるキャッシュフロー」の特徴を分析します。
一般的に当期純利益の割合が大きい場合、キャッシュフローが不安定になりますが、成長性は高いと考えられます。逆に減価償却費の割合が大きい場合には、安定性が高いと考えられます。
安全性比率
キャッシュフロー当座比率
キャッシュフロー当座比率(%)=営業キャッシュフロー÷流動負債×100
当座比率のキャッシュフロー版とも言え、短期的な返済能力を表しています。当座比率では決算時の一時的な残高を表しているにすぎないため、貸借対照表から算出される当座比率と、キャッシュフロー当座比率を組み合わせて実態を検証することが大切です。
キャッシュフロー比率
キャッシュフロー比率(%)=営業キャッシュフロー÷長期負債×100
有利子負債のうち、元本返済が必要となる長期負債に対して、営業キャッシュフローでどの程度賄えているかを見る指標です。インタレスト・カバレッジ・レシオと組み合わせて検証すると効果的です。
ここまで財務分析のやり方や着目点などについて書いて参りました。
今まで財務分析をしたことがなければ、自社の財務と照らし合わせながら、今後の経営方針や戦略を練ることで、違った発見やアイデアが出てくるかもしれません。
なにか少しでもご参考になれば幸いです。