まぐ太の金融と経営の扉

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民間金融機関で無利息型融資が取扱開始。

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以前から「民間金融機関で無利息融資を始める」といった報道がされていました。

この背景にはコロナウイルスによる影響を受けた事業者に対し、無利息融資ができる金融機関は”日本政策金融公庫のみ”であったことが大きく関係しています。コロナウイルスによりさまざまな需要が蒸発し、事業継続の見通しが不透明な中で、多くの事業主は「できる限り金利負担が少ない方法で資金調達をする」というのは当然のことです。

その結果、日本政策金融公庫には連日申請が殺到し、融資実行までの期間が長期化してしまいました。これでは「迅速な資金供給」という役目は果たせないということで、民間金融機関による無利息融資を検討していました。

先日の令和2年度補正予算が決定し、正式に民間金融機関でも無利息融資が開始となりました。

 

それでは内容を見ていきましょう。

※東京都以外の自治体でも無利息融資を対応している可能性がありますが、ここでは東京都で事業を営む方向けのみのご紹介とさせて頂きます。

無利息型融資は東京信用保証協会付融資となります。よって金融機関と保証協会の審査があります。

無利息融資の特別な商品がいくつも出るわけではありません。

1つだけ「感染症全国」という新しく商品ができますが、その他の無利息型融資については既存商品である「感染症対応」「感染症借換」「危機対応」の3つの商品が”改定された”イメージです。

無利息型融資は4つのラインナップになっています。

それぞれ条件が違ってくるので、うまく使い分けることで、よりメリットを出せそうです。

無利息の期間は3年間

「無利息融資」とは呼ばれていますが、無利息である期間は決まっています。

無利息の期間は3年間です。4年目以降は金利の支払が発生します。4年目以降の金利については、融資申請する企業の財務内容や返済期間、各金融機関の審査によって異なります。

東京信用保証協会のHPによると、各制度による金利の上限は、返済期間によって異なりますが、下記のようになっています。

  • 感染症全国:1.7%~2.2%以内
  • 感染症対応:1.5%~2.4%以内
  • 感染症借換:1.5%~2.2%以内
  • 危機対応:1.5%~2.0%以内

各商品とも”以内”となっております。上記以上の金利には設定できないと考えられます。この金利からどこまで低くなるかは、企業の財務内容及び各金融機関の審査次第といったところだと思われます。

www.cgc-tokyo.or.jp

 

 

いくらまで使えるのか?

無利息融資には利用上限額があります。

上記4つの商品(感染症全国・感染症対応・感染症借換・危機対応)の総利用額1億円が上限です。

今回の商品には”優先順位”があるようです。感染症全国の該当要件を満たす(セーフティネット保証もしくは危機関連保証が取得できる)事業主は、感染症全国から利用することになります。(もちろん同時申請も可能です。)

感染症全国については上限が3,000万円です。3,000万円超を申請する場合には、他の3つの商品との併用にて調達することになります。

個別の事例については下記に「活用の具体例」を記載しましたので参考にしてみてください。

 

 

返済期間は?

  • 感染症全国:運転資金・設備資金ともに10年以内(元金据置5年以内)
  • 感染症対応:運転資金10年以内、設備資金15年以内(運転資金・設備資金ともに元金据置5年以内)
  • 感染症借換:10年以内(元金据置5年以内)
  • 危機対応:10年以内(元金据置2年以内)

 返済期間については変更はありませんでしたが、元金の返済を据置できる期間が長くなりました。感染症対応・感染症全国・感染症借換については元金据置は最長で5年。危機対応については最長で2年となっています。

 

 

 セーフティネット保証・危機関連保証との関係は?

では資金繰り支援策として最初に打ち出された「セーフティネット保証」や「危機関連保証」と今回の無利息型融資の関係性はあるのでしょうか。

結論から言うと「関係大アリ」です!

上限が3,000万円の「感染症全国」は、申請要件に「セーフティネット保証もしくは危機関連保証の市区町村の認定証」があります。よって前年同月比で売上高が15%以上下落(または緩和要件に該当)している企業や個人事業主は、感染症全国を併用した調達になります。

また、審査面においても、セーフティネット保証や危機関連保証を併用した方がプラスになります。

セーフティネット保証・危機関連保証は、東京信用保証協会を利用する際に”別枠”として考えられます。それ以外の保証協会利用分については「一般保証」という枠組みの中で利用していることになっています。一般保証枠は無担保で原則8,000万円が上限です。企業規模によってはそれ以上利用することも可能ですが、原則は8,000万円までとなっています。

つまり無利息型融資1億円を調達しようとすると、利用している保証協会付の融資残が0円であっても、無利息型融資の申請の時点で一般保証枠の上限原則8,000万円を超過していることになります。既に一般保証枠にて利用している融資残高があれば、残高も合算されるためハードルはその分高くなることが考えられます。

であれば、セーフティネット保証・危機関連保証を活用した方が「別枠扱い」となるため審査にはプラスの材料になるというわけです。

セーフティネット保証の該当要件

4号:売上高が前年同月比で20%以上減少

5号:売上高が前年同月比で5%以上減少、国の指定業種であること

危機関連保証の該当要件

売上高が前年同月比で15%以上の減少

※上記はあくまで一般的な該当要件です。現在は該当要件が緩和されています。詳細はこちらを参考にしてください。

 

www.magta.net

 

 

活用の具体例

では個別のケースを想定して、具体例をあげていきます。

セーフティネット保証や危機関連保証の認定証を市区町村で取得した場合は「感染症全国」から優先して利用していきます。3,000万円超の場合は2口での申請とまります。そういったケースも想定し、いくつかのパターンを記載していきます。(すべての事例を網羅しているわけではありません。)

 

  • 3,000万円の新規調達の場合

方法は2つあります。

  1. 別枠で申請(市区町村の認定証を取得)
  2. 一般枠で申請

1.の別枠で申請する場合は、はじめに市区町村の認定証を取得してください。この場合は「感染症全国」を利用した調達となります。

2.は一般保証枠で申請します。

上記に記載した通り、”審査面”や”今後の資金調達を踏まえ一般保証枠を空けておく”といったことから考えると、該当する場合は市区町村の認定証を取得した方がいいでしょう。

 

  • 5,000万円を新規調達する場合
  1. 感染症全国(別枠)3,000万円+別枠2,000万円
  2. 一般枠5,000万円

3,000万円の調達をする場合と同様に、セーフティネット保証や危機関連保証の該当要件を満たすようなら、認定証を取得して感染症全国を併用する方法がお勧めです。

該当要件を満たしていない場合は、一般枠にて5,000万円を申請します。

 

  • 1億円を新規調達する場合
  1. 感染症全国3,000万円+別枠7,000万円
  2. 一般枠1億円

1.は認定証を取得し、感染症全国を併用する方法です。この場合は感染症全国の3,000万円で利用する枠と別枠での7,000万円の枠を分けておくとより審査面でプラスになるかと思います。感染症全国ではセーフティネット保証枠、別枠では危機関連保証枠など。

上記の方法はセーフティネット保証の該当要件(売上高が前年同月比で20%以上の下落など)を満たしていれば可能です。しかし売上高が前年同月比で”15%以上20%未満”の場合にはセーフティネット保証の該当要件は満たしておらず、危機関連保証の該当要件のみ満たしている形となりますので、そのような場合には

感染症全国3,000万円(危機関連保証枠)+危機対応7,000万円

で申請するのが良いかと思います。「無担保枠8,000万円」というのはあくまで原則になりますので、8,000万円以上の金額で申請しても審査が通る可能性は0ではありません。

2.はセーフティネット保証・危機関連保証の該当要件に当てはまらない場合は、一般保証枠にて1億円を申請する方法です。可能性は0ではありませんが、申請時点で一般保証枠を既に利用している場合は、利用残高によっては減額などの可能性もあり得ます。

 

  • 1億5,000万円を新規調達する場合
  1. 感染症全国3,000万円+別枠7,000万円+別枠5,000万円
  2. 感染症全国3,000万円+別枠7,000万円+一般枠5,000万円

1.はセーフティネット保証・危機関連保証を取得した場合に利用できます。2つの認定証を取得することで、保証協会の別枠が1億6,000万円(セーフティネット保証8,000万円、危機関連保証8,000万円)まで拡充されます。それぞれの保証枠を活用して申請します。

2.は危機関連保証のみ取得した場合です。感染症全国と別枠で1億円の調達を申請し、差額5,000万円は一般保証枠で申請します。仮に別枠申請が減額された場合、減額された金額を一般保証枠に上乗せして申請する方法もあります。

 

  • 5,000万円の既存保証協会分を借換し、3,000万円を新規調達する場合
  1. 別枠にて既存5,000万円を借換+感染症全国3,000万円
  2. 別枠で8,000万円を調達し、既存5,000万円を返済

1.では既存の保証協会利用分を別枠にて借換し、新規調達分は感染症全国にて3,000万円を調達します。

2.では最初に返済する金額5,000万円と調達する金額3,000万円の総額8,000万円を調達します。8,000万円が入金されると同時に5,000万円を返済します。調達総額は8,000万円ですが、5,000万円を完済し手元資金には3,000万円が残ります。

1.2のどちらを選択しても、返済期間が同じであれば返済額等も変わりません。借換分と調達分を異なる返済期間に設定していく場合には1での方法になります。

セーフティネット保証・危機関連保証の該当要件に当てはまらない場合は、1.2の方法をそれぞれ一般保証枠で申請する方法となります。

 

  • 5,000万円の既存保証協会口を借換し、5,000万円を新規調達する場合
  1. 別枠にて既存5,000万円を借換+感染症全国3,000万円+別枠2,000万円
  2. 別枠にて1億円を調達し5,000万円を返済

1.の場合ではセーフティネット保証と危機関連保証のどちらも取得していると、より良いかと思います。それぞれの原則の保証額枠内にて申請することで審査面でもメリットが出せます。

1.2ともに先ほどの「5,000万円の既存保証協会分を借換し、3,000万円を新規調達する場合」と同様になります。

 

 

終わりに

各企業によって現在の借入状況などが異なるため、詳細は取引金融機関にお問い合わせ頂くのが一番です。借換の商品についても、今利用している保証協会の”責任共有制度”によっては、「一本化できない」といった例も出ています。

また、国や東京都の制度だけではなく、各市区町村でもコロナ対応融資の商品を開発しているものも出てきているようです。希望額や期間によっては市区町村の制度融資の方が使い勝手や条件が良いケースもあります。

現在は政策金融公庫や商工中金といった政府系金融機関のみならず、民間金融機関や保証協会への相談も増えており、通常より時間を要しているようです。

 少しでも資金の調達を検討しているようであれば、早めに相談してみる方がいいかもしれません。