まぐ太の金融と経営の扉

金融や経営に関することを書いていきます

倒産法と事業再生 ~事業再生③~

「倒産」という言葉はよく耳にします。しかし「倒産」を厳密に定義すること(どの時点で倒産というか)は困難です。おおまかには、債務者が従来の経済活動や経済生活を維持しながら、弁済期にある債務の大部分を返済することが困難な状況に陥っている状態を「倒産」や「倒産状態」であると考えられます。

より具体的には、手形の不渡り、夜逃げ・店じまい、支払停止、破産・民事再生・会社更生手続開始の申立て、などの行為により「倒産した」と言われることが多いです。

企業の倒産は様々な原因によって引き起こされます。内在的な原因としては、①設備過剰、②放漫経営、③合理化の立ち遅れ、④技術革新競争による敗北、⑤労働争議などがあります。外在的な原因では、①国際経済の急変、②国内の産業政策の転換、③深刻な不況などが考えられます。また1つの企業が倒産すると、その債権者が自己の債務の返済資金として予定していた債権の回収ができなくなる結果、同様に倒産に至る「連鎖倒産」が生じる危険性もあります。

倒産手続の目的

このように企業の倒産という事態は、関係者にとって不幸なことですが、社会全体という観点からは、当該企業には不健全な経済活動を止め、企業を解体・清算したり、健全な形での再出発を促したり、当該企業の経営破綻による関係者への損害を最小限に食い止め、総債権者に対して公平かつ最大限の満足を与えるための制度が必要になります。これが企業が倒産した場合に倒産処理手続が必要とされる理由であると思われます。

法的倒産処理の必要性

倒産という現象は、社会活動の中で必然的に生じるものであり、古くから自然と生まれてきました。今日のように再建型倒産手続が整備されていなかった時代には、多くの倒産事件が債権者と債務者とが任意に協議をする私的整理によって処理されてきました。それにも関わらず、法的整理手続が設けられているのは、多くの私的整理で下記のような点で限界があるからだと考えられます。

  • 債権者間の公平の確保
  • 債務者の詐害行為の防止
  • 不正な目的をもった第三者の介入の排除
  • 大規模倒産事件の処理
  • 不良債権整理の必要性

法的整理手続の分類

法的整理手続は大きく「清算型」と「再建型」に分けられます。

清算型手続きは、債務者の全財産を換価して、総債権者に債権額に応じて分配します。当然に事業解体、会社の解散・消滅を導きます。

再建型手続きは、債務者の事業の収益力を向上させ、他方でその債務を向上させた収益力で支払える範囲に圧縮することで、その支払い能力を回復させ債務者を経済市場に戻す。

 

清算型倒産手続

清算型倒産手続は破産手続、特別清算に分けられます。

破算手続

破産手続は債務者の種別に関わらず、広く適用される一般的な清算型手続です。

破産手続は破産手続開始決定と同時に裁判所によって弁護士の中から選任される破産管財人が、裁判所の厳格な監督下で得た破産財団を管理・処分して得た金銭を、総債権者にその優先順位に従って公平に分配していく管理型の清算手続となります。

換価金を債権者に康平に分配するという破産手続の目的は、企業の企業・事業者には妥当しますが、個人債務者の破産の場合には実際は配当原資となる財産が殆どなく、債権者に配当がなされるのは珍しいことになります。

破産手続きは破産手続開始原因(支払不能債務超過)が存在するときに、債務者会社自身、取締役、債権者の申立てに基づき、裁判所が発令する「破産手続開始決定」により開始します。

破産手続の手続機関には破産管財人、債権者集会、債権者委員会などがあります。

個人破産

個人破産は2003年に24万件超の破産手続開始決定がありました。その背景には消費者金融・割賦販売・ローン提携販売・クレジットカードによる信用取引が、一般に広くかつ急速に浸透したことが要因の一つであると考えられます。

個人が破産した場合に、その経済的更生のために重要な役割を果たすのが、免責許可決定によって破産債権につきその責任を免除する破産免責制度です。破産免責制度には更生手段説と特典説があります。

更生手段説

不誠実でない債務者の更生手段とみる考え方。個人債務者の破産を消費者信用の膨張に伴って必然的に生じる現象と捉え、多重債務に陥った債務者を経済的に更生させるため、積極的に破産免責を運用すべきであるとする。

特典説

誠実な債務者に対する特典という考え方。消費者信用が膨張する中でたとえ個人債務者が多重債務に陥ったとしても、その責任は基本的に債務者本人にあり、安易な免責付与により債務履行についての責任感を失わせるのは好ましくないとする。

特別清算手続

破産手続が債務者の種別を問わずに適用される一般的な清算型手続であるのに対し、特別清算は既に解散し清算手続に入っている株式会社に適用することを予定した清算型倒産処理手続です。

通常清算の手続きに入った企業に、債務超過の疑いや、清算に支障をきたすような事情が明らかとなった場合、債権者や株主といった利害関係者の対立が生じてきます。このような場合に、裁判所の監督のもとに、従前の清算人が専ら債権者との交渉に基づいて作成する「協定」を軸として進める特別の清算手続となります。特別清算は利害関係人によっる自治が重視されており、破産と比較するとはるかに簡易で柔軟な清算手続となります。ただ特別清算はあくまでも清算手続の延長、通常の清算手続を厳格化した特殊な清算手続であり、破産手続の特別手続ではありません。

特別清算の手続開始原因は、①会社の清算事務の遂行に著しい支障をきたすべき事情があること、②会社に債務超過の疑いがあること、です。「債務超過の恐れ」「支払不能」はその事実が発生した時点では会社が事業を継続していることが前提の概念であるため、既に解散し清算の株式会社を前提とした特別清算では、手続開始原因とはなりません。

手続機関には清算人、清算会社の行為制限・監督委員、調査委員、債権者集会などがあります。

 

再建型倒産手続

民事再生法とは

従来の和議手続のもつ債務者主導の簡易な手続としての性格を維持しつつ、和議手続の欠陥をできる限り是正する形で創設された、再建型の一般手続としての民事再生手続に関する基本法です。

通常再生手続

民事再生手続の対象となる債務者の範囲については特段の制限を設けていません。医療法人や学校法人、個人事業者も利用が可能です。民事再生手続は、債務者に再生手続開始原因があり、申立権者による適法な申立がなされ、かつ申立棄却事由が存在しないときに裁判所の手続開始決定によって開始しますが、裁判所が職権により再生手続を開始することはありません。

再生手続開始原因
  1. 破産手続開始原因たる事実(支払不能債務超過)が生ずるおそれがあるとき
  2. 債務者が事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき
再生の3パターン
  1. 再生手続では債務者自身が再生手続開始後も、そのまま業務の遂行及び財産の管理処分を継続しながら事業の再建を目指すDIP
  2. 監督委員による監督を命ずる監督命令を発令し、監督委員の監督下で再生債務者が事業の再建を図る方式
  3. 再生債務者が法人の場合で、現経営陣にそのまま業務の遂行・財産の管理処分を委ねることが不適切な場合には、開始決定前に保全管理命令を発令し、保全管理人に再生債務者の業務遂行・財産の管理処分を委ね、開始決定後に引き続き管理処分を委ねる管理型
再生計画

再生債務者の事業の再建には、原則として債務者自身が作成した「再生計画」と呼ばれる再建計画に従って行われます。再生債務者等は、再生計画案を裁判所の定める期限内に提出します。

しかし、再生債務者たる株式会社が債務超過の状態で、再生計画の認可までに事業の価値が劣化が著しく、事業の維持・継続に支障が生じる場合は例外的に手続き開始後再生計画によることなく、かつ株主総会の特別決議がなくても、裁判所の許可だけで第三者に事業譲渡を行うことができます。

個人再生手続

消費者信用制度の国民への浸透という構造的要因に加え、バブル経済崩壊後の長引く景気低迷などが重なり、個人破産申立件数は増加傾向でありました。個人再生手続はこのような状況下で、従来の法的倒産手続間にある間隙を埋め、個人の経済生活の再建のために選択しうるメニューを多様化させるために導入されました。個人債務者はこの手続を利用することで、通常の民事再生手続より簡易・合理化された手続で、破産手続の利用による不利益を避けながら、また他方で、民事調停では得られない強制力ある弁済計画を立てることを目的として導入されています。

個人再生手続の概要

個人債務者のために特化された再生手続としては、小規模個人再生と給与所得者等再生があります。

小規模個人再生

零細事業者を含む個人に対する特別の再生手続です。対象者は、将来において継続的または反復的な収入の見込みがあり、かつ無担保の再生債権総額が5,000万円未満の個人債務者です。再生計画は再生債務者のみが提出します。

給与所得者等再生

サラリーマン、OLが対象となります。小規模個人再生との共通点が多いですが、一定の弁済額を確保することを条件にして、再生債権者の決議自体を省略する点が最大の特徴です。よって弁済計画による弁済がその収入に照らして合理的かつ最大限のものであることが客観的に確認できるものですなければなりません。

民事再生法による民事再生手続は通常再生、小規模個人再生、給与所得者等再生の順で、手続を利用できる債務者の範囲が狭められている。

会社更生手続

会社更生は、株式会社に特化した再建型の倒産処理手続です。事業の維持・再建に向けて強力かつ豊富な手段が整備されされている制度となります。

会社更生法の特徴は、大規模な株式会社の迅速かつ円滑な再建を可能とするため、更生手続の迅速化及び合理化を図るとともに、再建手法を強化し、現在の経済社会に適合した機能的な手続きに改めた点になります。

会社更生手続と民事再生手続との間には、担保権や租税債権などの処遇につき歴然とした違いがあります。しかし民事再生手続でも管財人が選任されるケースや、DIP型会社更生手続の導入、会社更生手続の利用会社の小規模化など、実際の運用の場面での両手続の差は小さくなってきています。

更生手続の開始原因
  1. 破産の原因たる事実が生じるおそれがある
  2. 事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができない
手続機関
  • 更生管財人
  • 関係人集会
  • 更生債権者委員会・更生担保権者委員会・株主等委員会
更生計画案

更生計画案は、更生管財人が立案し裁判所に提出するのが普通でありますが、会社・更生債権者・更生担保権者・株主も、独自の計画案を提出することができます。

更生計画案が裁判所に提出されると、更生計画案について決議が行われます。法廷多数決にて可決され裁判所が認可すると、更生計画の効力が生じ、各関係人の権利は更生計画が定める内容に変わり、もとの権利はなくなります。

 

裁判外の倒産処理手続

法的整理手続は、多かれ少なかれ債務者に倒産企業ないしは破産者の烙印を押し、その再生を困難にするという要素を抱えています。そこで裁判外の(合意による)より緩やかな手法による倒産処理が求められています。裁判外の倒産処理は私的整理と倒産ADRとに分かれます。両社は中立的な第3者が手続きに介在するかによって区別されます。中立的な第3者が介在する場合を、倒産ADRと呼んでいます。

 

私的整理

私的整理とは裁判外で(合意により)、債権者と債務者とが任意に協議をして債務整理をすることです。ながく多くの倒産事件が私的整理により処理されてきました。私的整理では私的自治の原則が支配し、法定の手続が決まっているわけではありませんが、一応の手続慣習が事実上出来上がっています。私的整理では、利害関係人による話合いとそれを踏まえた債権者委員長や弁護士の創意・工夫により各事件の個性に合わせた弾力的な処理を行うことができるのが特徴です。

私的整理の課題

私的整理はうまく行われれば理想的な倒産処理が実現できますが、以下のような課題もあります。

  • 手順が法定されていないため、透明性や予測可能性の点で限界がある
  • 裁判所の監督がなく、保全処分、強制執行の停止、否認権などの、手続を適正に担保するためのシステムが全く備わっていない。
  • あくまでも債務者と債権者の合意に基づく手続であることから、両者の交渉が必ずしも透明なものとは限らない。
経営者ガイドライン

私的整理には多くのメリットがあるものの、手続の透明性や予測可能性の限界により、実際に債務者企業の実情に沿わない安易な債権カットや問題の先送りに留まるケースもありました。

そこで金融機関の不良債権処理と企業の過剰債務問題を一体的・抜本的に解決するため、「私的整理ガイドライン」が策定されました。私的整理ガイドラインは、複数の金融機関に対して返済困難な債務を抱えた企業のうち、過剰な債務をある程度軽減することで再建できる可能性のある企業を救済するため、債務者企業と複数の金融機関が協議したうえで、債権放棄やデット・エクイティ・スワップなどの金融支援を行い、公明正大で透明性のある私的整理を行うための手続準則のことをいいます。

基本的には資金繰りに窮する以前よりも早い段階で私的整理に着手し、迅速に事業再生を目指すものであり、商取引債権を毀損することなく、通常の営業を維持することが当然の前提とされています。

倒産ADR

裁判外で中立公正な第三者の関与によって、債務者の倒産処理、事業再生を目的として再建契約や債務調整の合意を測っていく手続をいいます。簡易迅速性・柔軟性・秘密保持性・当該企業の事業価値の毀損を防ぐことができます。

倒産ADRには、介在する中立的第3者の設営者・運営者の属性に応じて①司法型、②行政型、③民間型の3種類があると言われています。

司法型倒産ADR

従来からある民事調停法のもとで、事実上、倒産処理手続としての機能を営んできた、債務弁済協定調停の機能を充実・強化する目的で行われます。

行政型倒産ADR 

中小企業再生支援協議会が行う倒産ADRで。産業再生機構と異なり、金融債権の買取などはなく、あくまでも中立的な第三者としての立場で債務者の事業再生に関与する。

民間型倒産ADR

特定認証ADRのことをさします。基本スキームは私的整理ガイドラインの事業再生スキームに依拠したものですが、特定認証ADRでは特定認証ADR事業者があくまでも中立的な第3者として債務者の事業再生に関与するという点では、私的整理ガイドラインに基づく事業再生とは決定的な違いがあります。

事業再生の構造変化と取組み ~事業再生②~

長引く不況により中小企業の経営状況は悪化しています。金融機関目線では不良債権について、従来の倒産処理という認識から、事業再生による失業の予防、地域経済の活性化にシフトしつつあるように感じます。

今回は事業再生の焦点が、従来のBS型からPL型へ変化しつつあることや、金融機関の役割、経営改善契約書の策定、セーフティネットについて書いていきます。

事業再生の構造変化

BS調整型→PL調整型へ

バブル崩壊後の事業再生において焦点となっていたのは、バランスシート調整を行うタイプの不良債権処理が中心となっていました。コア事業は黒字でもノンコア事業に市場競争力がなく赤字で過大な債務を負っており、それが経営を圧迫しているといった場合です。これに対し、過剰設備の売却・閉鎖や過剰債務のDES・DDSの処理といったバランスシートの調整が行われました。

しかし最近ではこのようなバランスシート調整型(以下BS型)の事業再生のみでは解決できない問題が多くなってきています。原材料価格の上昇やリーマンショックなどの金融経済環境の悪化などで、需要や採算が急激に悪化し、競争力や収益力のあったコア事業が赤字に転落してしまうといったケースが増加しています。最近ではコロナウイルスによる需要の蒸発や、円安の加速による原価高騰などもBS型では解決が難しい問題です。

特に中小企業ではコア事業以外の事業が存在しない方が多いため、事業再生においてBS型よりも、損益計算書型(以下PL型)を主体とし、収益力の低下したコア事業の強化・収益力向上を図っていく必要があります。

PL調整型事業再生の特徴

PL改善型の特徴はコア事業の強化・改善による売上高の向上、業務見直しによる原価・コストの削減などの経営改善による業務リストラが主体となります。そのための事業計画の策定がポイントになります。

 

再建計画の策定

経営不振の中小企業にとって、経営改善計画をどのように策定できるかが、極めて重要になってきます。企業の状況や業種によって違いはありますが、再建計画に共通する記載事事項をリストアップしていきます。

①企業の概況説明

株主構成、組織図、事業内容、経営理念など

②外部環境分析

企業の置かれている市場環境・競争環境を見つめなおし、事業の選択と集中を推進するため活用します。SWOT分析、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)、ビジネス・スクリーン(マルチファクター・マトリックス)、ファイブフォース分析、バリューチェーン分析など。

③内部環境分析

企業の持つ経営資源について、強み・弱みを識別し、問題点の核心や問題解決の優先順位を明確にします。SWOT分析、バランスト・スコアカードなど

④業績及び財産等の推移

経営不振の真の原因を探します。PL、BSの5〜10期の比較分析。キャッシュ・フロー計算書の作成、実態バランスシーの作成など

⑤窮境要因の分析、除去可能性

①~④の事項で事業、財務、内外部環境、競合他社の状況の多面的な分析を行った各項目について、各々の問題解決の具体的可能性と方法を検討します。

⑥経営再建についての概要

  1. 経営者の責任
  2. 具体的数値計画(損益計画、設備投資計画、資金計画、予想貸借対照表,具体的な行動計画)

計画スケジュールの管理者をきめ、5W1Hを意識しながら具体的なアクションプランを定期的にモニタリングしていきます。

 

セーフティネット保証制度

セーフティネット保証とは

セーフティネット保証制度とは、業況が悪化している業種の中小企業者を対象に、民間金融機関から融資をうける際に信用保証協会が返済を保証する仕組みです。一般保証の限度額が別枠化されています。最近ですと、リーマンショック東日本大震災新型コロナウイルスなどで設けられました。

セーフティネットの活用

セーフティネット保証により資金調達が可能となっても、国の緊急的な制度によって当面の資金繰りが確保できたことに留まります。むしろ借入金の毎月の返済金額は増加するため、現状維持では資金繰りが窮してしまうことが予想されます。

セーフティネット保証によって一時的に資金繰りに余裕が生まれたときに、いかに企業価値の向上や、本業の収益性を高めていけるか、中長期的な資金繰りを改善する対策を講じることができるかが重要です。

事業再生の経緯 ~事業再生①~ 

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事業再生を検討する原因は様々ですが、「収益の低迷や資産価値の毀損等を原因として、独力での事業の継続に支障をきたしている。また近い将来に支障をきたす恐れのある企業」が対象となることが多いです。このような事業者は、過剰債務や営業キャッシュフローがマイナスである等の状態であることが予想されます。

事業再生はこのような状態を解消するために、事業再構築や財務再構築を実行することにより、持続的な事業の存続及び成長を可能とするプロセスです。

経営不振の原因

経営不振の原因の多くは、生産設備の稼働率の低下や集客力の悪化などの「収益性の低迷」が先に表れ、それが資産価値の毀損等に繋がります。

収益性の低迷の原因

  • 市場の読み誤り
  • 限界利益率の低下(価格競争に巻き込まれるなど)
  • 需要の落ち込み
  • 原料価格の高騰

事業再生に至るまでのイメージ

選択と集中

「収益性の低迷」を短期間で解消することは困難です。中長期的な視野に立ち、競争力を維持しつつ改善努力できるかがポイントとなります。場合によっては事業の縮小や撤退を判断することも必要です。いわゆる「選択と集中」です。特に積極的な多角化裏目に出て経営不振に陥った企業は、限りある経営資源が分散しているため「選択と集中」により、企業が本来持っている経営資源を重点事業分野に集中し、収益性を回復させることが必要です。

経営不振の原因は、収益性の低迷と資産価値の毀損が互いに結びついており、事業と財務の両面から再構築を図る必要があります。

事業再構築

事業再構築は「選択と集中」が大きな骨格となります。重点事業分野ではないノンコア事業からの撤退により過剰な設備と人員の削減、それに伴う退職金制度の見直しなどを行います。

財務再構築

財務の再構築には外部機関の協力が必要となります。債務のリスケジュール、債務免除、DDS、DESなどの手法も含まれます。

中小企業は単一事業を営んでいることが多く、大企業と異なり、事業分野における「選択と集中」を大胆に行うことが困難になります。また経営者自身がオーナーであること、直接金融の手段がなく金融機関からの借入金調達が主体であることから、事業と財務のモニタリングが金融機関のみにとなることから、金融機関からの支援が重要となります。

中小企業の事業再生については、①手法の選択肢が狭いこと、②企業自身からの再生着手が遅れがちになること、の2点に注意し金融機関からの支援を伴う「早期着手」が特に重要になります。

 

早期着手と迅速処理の重要性

事業再生は事業運営上に何か問題が認識されたときに、すぐに「内外の人材を活用して解決を試みる」というリスク管理プロセスの延長線上にあります。経営不振企業は新製品開発の遅れ・保有技術の陳腐化・過剰設備投資・事業投資意思決定の失敗・企業不祥事の発生によるブランドイメージの毀損といった問題に対して、リスク管理プロセスが十分に機能しなかったことにより、売上減少・利益減少・不良資産増加・資金繰り悪化・過剰債務状態といった症状が表出してきます。

早い段階で再生に着手することで、各ステークホルダーからの協力が得やすい、様々な再生ツールの選択・活用が可能になります。早期着手により事業再生が成功する可能性が高くなります。

キャッシュフロー経営

事業再生の取組のなかで、企業の経営管理指標として「キャッシュフロー関連指標」を活用します。

キャッシュフローとは「本業からどれだけのキャッシュを稼いだか」「設備投資や運転資金にいくら使ったのか」「税金・利息はいくらか」「借入金の増減」などという資金の流れのことを指します。キャッシュフローの利点は、会計上の利益が会計処理方針によって変動するのに対し、現金自体は残高として確定しているため、実質的な数字が把握できることです。

しかしキャッシュフローだけ気にしていればOKというわけではありません。業績悪化時には債権の回収段階に入るため、一時的にキャッシュフローが改善するという傾向があり、キャッシュフローの変調ばかりに気を取られてしまうと、事業の変調を見逃してしまう懸念もあります。

キャッシュフロー経営とは、「従来の指標も当然に管理対象としながら、その限界を補完するキャッシュフローベースの指標にも着目していこう」という発想です。現在あらゆるステークホルダーに共通した企業の価値は「企業が将来生み出すことが予想されるフリーキャッシュフローの現在価値」と言われています。伝統的な指標をキャッシュフローベースの指標を通じて企業価値と連動させることが、キャッシュフロー経営の目的です。

代表的な経営管理指標

経営管理指標には、事業投資や撤退の意思決定のための将来予測評価のために用いられる指標と、過去の実績を評価するために用いられる指標があります。代表的なものを下記に挙げていきます。

収益性
  • 将来予測評価…IRR、NPV
  • 過去実績評価…EVA、CFROA、EBITDA、FCF
安全性
成長性

早期着手という観点からは、過去の業績評価指標が重要です。過去からの傾向値を捉えて原因を追求し対策を講じる必要があります。

 

再生のフレームワーク

収益性の回復

売上の増加(or減少のストップ)、費用の削減による利益の回復を図ります。これによりキャッシュフローの改善に取り組みます。

短期的には自社製品の競争力や収益性を分析し、採算性の低い製品についてはラインナップを絞り込みします。長期的にはマーケティング戦略を再度点検し、開発・製造・販売・流通・回収といった事業サイクルにおける体制強化のための管理体制と教育を徹底していきます。

費用のコントロール

損益分岐点分析により変動費と固定費を分析します。同業者のデータを参考にし、時系列のデータを持って動態的に分析することが重要です。

変動費の改善案

  1. 製品の構成を見直し、部品点数を減らす。部品の形状を見直し、より原料の使用の少ない部品の開発
  2. 購買先を評価しランク付し、重要な評価項目として価格を織り込むことで仕入れ単価・外注単価を引き下げる
  3. 標準原価を導入し原価を徹底管理し製造原価を低減する

固定費の改善については、従業員のリストラ、スタッフ機能のアウトソーシング活用などが検討できるが、組織全体の士気に悪影響を及ぼす可能性もあり、慎重な対応が必要です。

事業再編

損益改善・キャッシュフロー改善努力にも関わらず、十分な回復ができず、より大胆な改革が必要になった場合に、事業再編(遊休不動産の売却、共同事業の統合、M&Aなど)を検討していきます。

事業再編のステップ

まずは事業の適切な分類と事業価値の評価を行います。切り出された各事業について、現在の投下資本と今後の投下予定資本、創出されるキャッシュフローから合理的な事業価値を算出していきます。

どの事業をコア事業・ノンコア事業とするかを決定し、コア・ノンコア事業の中でさらに複数の事業分野がある場合は成長分野・成熟分野・衰退分野・可能性分野に分類します。分類された各事業について事業間のシナジー効果も考えながら、企業価値を最大化するための事業の選択と集中を判断します。

資源を集中する分野においては事業統合・新規資金調達をし、縮小・撤退をする分野については各種M&Aを比較して再生方針に最も合致した手法を選択します。

再編後の事業運営を成功させるためには、戦略と戦術を明確にし準備を進めることが重要です。単に不採算部門を切り離す会社分割をしても、本業の収益が悪い場合にはこれを回復させるための再建計画がなければ本来の再生の目的は到底到達には至りません。

 

迅速処理による事業再生

損益・キャッシュフローの改善のための収益性向上のための努力や、資産売却等による有利子負債の圧縮努力を行い、各種手法を用いた事業再編にも関わらず、なお再生が果たせない場合、企業はいよいよ窮境状態となります。

この段階では事業価値の劣化が激しく、実質債務超過の状態であり、財務リストラを含めた抜本的な計画策定と実行が求められます。この場合の再生計画では利害関係者の権利変更が織り込まれるため、計画の妥当性・債権放棄等の衡平性・債権放棄に応じる利害関係者の経済合理性などが求められ、調整に長時間を要します。再生のためのツールとしては「法的整理」と「私的整理」の2つがあります。

私的整理

私的整理を行うには、債務者企業の置かれている現状の徹底的な調査(過去の財政状態・経営成績の推移・外内部環境・窮境原因・再建可能性)を行います。その後財務リストラを含む再生計画の策定が行われることになります。その際には弁護士・公認会計士・税理士といった専門家を利用することで、公正かつ迅速な処理が可能となります。

私的整理は法定の手続きを取らずに、主に金融機関の合意で債権放棄などを行う可能性を検討します。

私的整理のメリット

  • 法的整理に比べて迅速な解決が可能となる
  • 水面下の交渉で検討されるため事業価値の毀損が少ない
  • 債権者にとっても、法的整理と比較し回収額が多くなるといった経済合理性がある可能性
  • 金融機関以外の債権者の債権は全額弁済され、従業員のリストラの規模も法的整理と比較し少なくなる可能性もあり、社会的なメリットは大きい

しかし私的整理には法的な拘束力がないため、一部の債権者に対する偏頗弁済や詐害行為によって衡平性に欠ける危険性があるほか、債権者全員の同意が必要になるため合意に長時間を要することもあります。

法的整理

法的整理の場合、再生計画認可まで通常は民事再生で6ヶ月、会社更生で1年の期間を要することになります。そこであらかじめ主要な債権者と権利変更について実質的に合意を得たうえで申し立てを行い迅速に手続きを終了する、プレパッケージ型法的整理という手法が利用されることがあります。

プレパッケージ型民事再生手続

DIP型を採用しており、経営者は再生手続開始後も引続き事業経営権と財産処分権を有しつつ事業再生に取り組むことが出来ます。これにより経営者は再生手続開始前に自律的に進めていた事業再建計画を、民事再生のなかで実現していくことが可能です。

プレパッケージ型会社更生手続

事業再生に伴い、増資による資本構成の変更や会社分割・合併等の組織再編を伴う場合には、担保権者や株主も法的規制の対象となる会社更生による方が容易に実行が可能となります。

 

再生支援の金融制度の変化

キャッシュフロー融資慣行

バブル崩壊後に経済環境の悪化とともに資産デフレが進行し、不動産等を中心とした資産価値を担保とする融資慣行は、金融機関にとってリスクを高めています。金融機関がこうしたリスクを分散するため、「従来の信用=資産」ではなく「信用=事業価値または企業価値」というキャッシュフローに着目した融資慣行へと移行しつつあります。

リレーションシップバンキング

リレーションシップバンキングとは金融機関が顧客との間で親密な関係を構築し、企業の情報を得て融資等を行うビジネスモデルのことです。2003年3月に金融庁が公表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づき、①取引先企業の経営相談・支援機能の強化、②早期事業再生に向けた取組、③新しい中小企業金融への取組強化といったことが評価されました。

また2005年5月には、上記プログラムを承継するものとして「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラムを策定し公表しました。具体的なポイントは

①創業・新事業支援機能等の強化、②取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化

③事業再生計画に向けた積極的取組、④担保・保証に過度に依存しない融資、⑤中小企業の資金調達手法の多様化等、⑥顧客への説明大勢の整備、相談苦情処理体勢の強化、

⑦人材の育成となっています。

こうした地域密着型金融の従前からの取組を踏まえ、これをさらに拡充・強化したものとして2009年に中小企業金融円滑化法が成立・施行されました。

事業再生ファンド

日本経済を取り巻く構造変化により、従来型メインバンクの役割が相対的に低下しているなかで、事業再生ファンドの存在感や役割期待が高まっています。不良債権の売却先として、私的整理後の企業の財務内容安定化のためのエクイティの出し手として、既存金融機関では対応が難しい部分について、事業再生ファンド等が積極的な役割を果たしてきました。

また事業再生ファンドは、再生計画の実行フェーズにおいても、再生プロセスの管理者として、大きな役割を果たしています。再生対象企業の財務・事業リストラクチャリングに向けたマスタープランの策定から、当該プランの実行のサポートまで、対象企業に外部から経営者を招聘もしくはファンド自ら人材を派遣したうで、支援先の従業員とともに内部から改革を主導します。

事業再生ファンドにとっての最終的な出口は、支援先企業が自律的な回復軌道に乗り、企業価値が上がった段階で投資持分を売却し、資金回収をすることです。対象企業にとっては、ファンドの出口の際に、再度大株主が変更となる点において不安定な材料はのこるものの、企業価値の向上を図るという点においては、対象企業とファンドの利害は一致することになります。

サービサー

サービサーは金融機関の不良債権問題によって誕生しました。不良債権処理のための一つの方法として、債権管理・回収の受託業務を行うとともに、債権の買い取り業務を実施し、金融機関が抱える不良債権のオフバランス化に貢献してきました。最近では通常業務に加え、企業再生のサポートを行うサービサーも登場し実績も多数上げているようです。再生対象企業のノンコアの不採算事業の整理・コア事業の再生プランの立案、資金調達のアレンジなど、財務リストラクチャリングに向けた動きを総合的にサポートする動きを進めています。

 

事業再生に関連する公的施策・法整備

ここからは事業再生を支える法制度や公的施策についてまとめていきます。

事業再編などの法整備

純粋持株会社独占禁止法改正)

自ら事業を行わず、親会社が複数事業の株式を所有し、グループ全体の戦略や企画を行うことに特化した組織形態をあらわします。陣俗な事業構造の再構築が可能となるメリットがあり、事業ごとに会社が分割されることで、M&Aが行いやすくなりました。

株式交換・移転制度

会社がその完全親会社を設立するための制度です。完全子会社となる会社の株主が、完全親会社となる会社の新設をするために、保有する株式を拠出する代わりに、完全親会社の株主となります。グループ内純粋持株会社の設立や、事業統合における兄弟会社化に活用が検討されます。

・会社分割制度

既存の会社の事業または一部を他の会社に包括的に承継させる制度です。株式交換・移転及び会社分割制度は、いずれも従来の法制度上の障害を克服し、事業再編のための手続きを大幅に簡素化した制度となります。

・組織再編税制、連結納税制度

合併、会社分割、現物出資、事後設立に関して従来課税されていた資産の移転、株式の譲渡などが、一定の要件を満たせば非課税で行えるようになりました。

・自己株式取得の原則解禁(金庫株の解禁)

資本の出し入れが容易になりました。株価低迷時に安値で自社株を買い、株価回復時に株式交換や高値で流通させることも可能となりました。

倒産法制など

民事再生法の制定

和議法に代わり制定。破産原因がなくとも手続を始めることができるよう開始原因を広くし、再生計画案可決の多数決要件を緩め過半数とするなど、さまざまな点で使いやすい制度となりました。

・私的整理ガイドランの公表

このガイドラインによる私的整理がはじまると、金融機関など対象債権者の権利行使は一時停止されますが、一般の商取引債権の支払や決済は停止されません。一定の要件を満たせば、金融機関の債権カットのみのため上場廃止にならないというメリットもあります。

会社更生法・破産法の改正

民事再生法があらゆる法人・自然人に手軽に利用できる手続であることに対して、会社更生法は大企業向けを想定し、株式会社だけに適用されます。

・事業再生ADRの開始

民事再生法会社更生法の申し立て前に、当事者間での債務調整が難航するケースが多いことから整備されました。簡易かつ迅速な私的整理手続となります。

政府系機関等による支援

産業活力再生特別措置法

事業再編のための計画を立案して経産省の認定を受けると、事業再構築計画を実行にうつすために税制等便利な複数の特例が適用されます。

整理回収機構(RCC)

住宅金融債権管理機構整理回収銀行の合併により設立されました。信託機能および買取機能を活用した、中小零細企業の再生スキームを創設しています。

サービサー

法務大臣の許可を得た債権回収会社は、委託を受けて金融機関等が有する貸金債権または譲り受けた貸金債権の管理回収業務をおこないます。

産業再生機構IRCJ)

有用な経営資源を有しながら、過大な債務を負っている企業に対し、事業再生支援をすることを目的とします。債権買取、資金の貸し付け、債務保証、出資などの業務を行います。2007年に解散。

中小企業再生支援協議会

産業再生機構が大企業を対象としたのに対して、中小企業を対象としています。専任の再生専門家を配置し風評リスクに対する抵抗力の弱い中小企業の実態に即し、守秘義務を厳守のうえで、公正中立な立場から再生に必要な助言や再生計画策定支援を行います。

企業再生支援機構(ETIC)

2007年に解散した産業再生機構の後身となります。

金融機関による支援

・リレバン・アクションプログラムの恒久化

各地域金融機関で、経営改善支援、事業再生などライフサイクルに応じた取引先企業の支援強化などが共通に引き続き求められることになりました。

公的資金繰り支援・中小企業金融円滑化法

金融検査マニュアルの弾力化、貸付条件の変更に応じる努力義務を課していました。

民間金融機関の無利息型融資に変わる新制度「伴走」スタート! その内容とは?

新型コロナ感染症による経済への影響が出ている中で、昨年から始まった民間金融機関による無利息型融資は令和3年3月31日受付分をもって終了しました。しかしながら依然として新型コロナウイルス感染症は事業活動に大きな影響を与えています。

今まで民間金融機関による無利息型融資は保証協会付融資として信用保証協会の保証を受けていました。東京信用保証協会では無利息型融資に続く融資商品として「伴走全国」「伴走対応」「経営サポート(都改サポ感染)」「事業転換・業態転換(事業・業態転換)」をリリースしました。

今回はこの新たな4つのコロナ融資制度から特に利用がしやすいと考える「伴走全国」「伴走対応」について解説していきます。

 伴走全国

融資上限:4,000万円

資金使途:運転・設備(既存債務の借換も可能

期間:10年以内(元金据置は5年以内)

金利:融資期間 3 年以内    1.7%以内
        3年超 5年以内   1.8%以内

        5年超 7年以内   2.0%以内

                             7年超10年以内  2.2%以内

金利については保証協会の保証割合が100%である場合は0.2%下がる可能性あり。

信用保証料なし

セーフティネット4号・5号・危機関連保証に関する市区町村の認定経営行動計画書が必要

 

伴走対応

融資上限:2億4千万円

資金使途:運転・設備(既存債務の借換は不可

期間:10年以内(元金据置は5年以内)

金利:融資期間 3 年以内    1.7%以内
        3年超 5年以内   1.8%以内

        5年超 7年以内   2.0%以内

                             7年超10年以内  2.2%以内

金利については保証協会の保証割合が100%である場合は0.2%下がる可能性あり。

信用保証料4,000万円以下は負担なし

      4,000万円超部分は1/4負担

セーフティネット4号・5号・危機関連保証に関する市区町村の認定経営行動計画書が必要

 

セーフティネットの取得と事業計画書の作成が必要

無利息型のコロナ融資に代わる商品がこの「伴走全国」「伴走対応」です。特徴は保証協会へ支払う信用保証料は国や東京都の全額補助により事業者負担がない、もしくは1/4と負担が少ないことです。融資期間も最長で10年、返済方法についても元金据置が5年まで使用できる点は、無利息型のコロナ融資の内容を引き継いでいるように感じます。

コロナ融資と同じように伴走全国・伴走対応ともに自治体のセーフティネットを取得する必要があります。セーフティネットの概要についてはこちらを参考にしてください。

www.magta.net

www.magta.net

また伴走全国・伴走対応は申請時に「経営行動計画書」という事業計画書の提出が求められます。事業計画書といってもA3で1枚のシンプルなものです。 この計画書も作成しておくと話がスムースかもしれません。

記入例:https://www.cgc-tokyo.or.jp/download/cgc_keieikoudokeikakusho_kinyurei_2021-4.pdf

 

伴走全国と伴走対応の使い分け

 ここまで伴走全国と伴走対応の内容について見てきました。どちらも大きな違いは無いように感じます。伴走全国は融資上限が4,000万円であるため、仮に5,000万円の申請をすると伴走全国で4,000万円、伴走対応1,000万円のように2本立てとなるようです。

伴走対応の商品目的にも「伴走全国の融資限度額の範囲では必要な資金調達額を賄うことができない中小事業者の資金繰りの円滑化を図る」と記載があります。信用保証料の観点からもまずは伴走全国から利用するのがいいのではないかと考えます。

 

企業の思い切った事業再構築を支援! 中小企業等事業再構築促進事業

 

令和2年度3次補正予算において実施が予定されている補助金があります。

その名も「事業再構築補助金

ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業の思い切った事業再構築を支援し、日本経済の構造転換を促すことを目的としています。

↓↓リーフレット↓↓

https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/jigyo_saikoutiku.pdf?0326

 

 

申請要件

・売上が減っている(申請前の直近6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高がコロナ以前の同3ヶ月と比較して10%以上減少)

・事業再構築へ取り組む(事業再構築指針に沿った新分野展開、業態転換、事業・業種転換)

・認定経営革新等支援機関と事業計画を策定する(補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均3%、グローバルV字回復枠は5%以上増加、または従業員1人あたり付加価値額の年率平均3%、グローバルV字回復枠は5%以上増加の達成を見込む事業計画を策定)

 

付加価値とは?

一般的には「営業利益+減価償却費+人件費」

設備投資を実施すると減価償却費が増加するため、景気回復や新規事業で売上が増加すれば達成できる可能性がある。

 

補助額・補助率

中小企業

・通常枠:補助額100万円〜6,000万円 補助率2/3

・卒業枠:補助額6,000万円〜1億円 補助率2/3

中堅企業

・通常枠:補助額100万円〜8,000万円 補助率2/3

・グローバルV字回復枠:補助額8,000万円超〜1億円 補助率1/2

 

補助対象経費

補助金は基本的に設備投資を対象とするもの。設備費、建物建設費、改修費、撤去費、システム購入費も対象。

新しい事業開始に必要となる研修費、広告宣伝費、販売促進費も対象。

 

事業計画の策定が必要

補助金には審査があります。補助金の審査は事業計画をもとに行われるため、採択されるには合理的で説得力のある事業計画が必要となります。

事業計画は認定経営革新等支援機関と相談しつつ進めていくのがオススメです。事業実施段階でのアドバイスやフォローアップが期待できます。

 

事業計画に含めるべきポイント

・事業内容、強みや弱み、機会や脅威、事業環境、事業再構築の必要性

・事業再構築の具体的内容(製品、サービス、導入する設備など)

・新事業の市場状況、自社の優位性、課題やリスクとその克服方法

・実施体制、スケジュール、資金計画、収益計画

 

事務局HP・公募要領

↓↓事業再構築補助金事務局HP↓↓

 

jigyou-saikouchiku.jp

 

↓↓公募要領↓↓

https://jigyou-saikouchiku.jp/pdf/koubo001.pdf

 

コロナウイルスが依然として猛威を振るっている中で、今後の事業運営について展開をご検討している経営者の方も少なくないのではないかと思います。

さまざまなことにチャレンジしたくても、どうしても先に投資費用が必要となります。そのような場合にはこのような補助金も活用してみてはいかがでしょうか。

 

 

事業引き継ぎ支援センター

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事業承継が企業の課題として増えているなかで、前回は東京都の取り組みでる「地域金融機関による事業承継」をご紹介しました。

 

magutann.hatenablog.com

 

今回は経済産業省が実施している「事業引き継ぎ支援センター」についてご案内します。

 

 

事業引継ぎ支援センターとは

国(経済産業省)が実施している機関で後継者がいない会社を引き継いでくれる会社を探す手伝いをしてくれる機関です。第3者承継支援(M&A)や親族承継、従業員承継の情報提供やアドバイス、各種支援機関の紹介業務を行なっています。特にM&Aの場合には課題の見える化、M&A支援会社や金融機関、専門家(士業等)の紹介を行います。

「企業同士のお見合いの場を提供するような機関」というイメージです。

民間のM&A仲介会社や金融機関では取り組めないような小規模案件や、公平中立な立場からの客観的なアドバイスセカンドオピニオン)が必要な場合にも活用できます。

 

 

事業引継ぎ支援センターの活用方法

当該期間は事業承継対策が未着手の企業でも相談ができます。「事業承継といっても何から始めていいかわからない」や「承継の方法や手続きを知りたい」といった、”事業承継の入口“の相談も受け付けています。

「自社を他の企業へ譲渡や売却をしたい」や「他者を譲受、買収したい」といったM&Aの相談も受けています。事業引継ぎ支援センターは全国48カ所に設置されているため全国のセンターと情報共有が可能です。地域に限定されない情報が手に入るというのも特徴の一つです。

 

 

まとめ

  • 事業引継ぎ支援センターは国が運営する機関で、無料で相談できる
  • 相談内容は事業承継やM&A(売却や買収)など
  • 支援内容は直接支援や支援機関の紹介

 

民間のM&A仲介業者と違って、当該センターが積極的に買収先を探したりすることはないようです。

喫緊ではないが事業承継について漠然とした課題を見える化したり、M&Aの話が出た時のセカンドオピニオンとして活用するのがいいのではないかと思います。

 

経営のバトンタッチってどうするの? 地域金融機関による事業承継促進事業を活用してみては?

最近は人口減少に伴い、事業所の数も減少傾向が続いています。

これに大きな危機感をもっているのが地方銀行や信用金庫等の地域金融機関です。最近は低金利によって本来の金利収入が低下していたり、フィンテック企業の躍進により聖域と言われていた預金や為替による収益も減少しております。この状況で人口減少や事業所減少となってしまうと、地域経済が縮小するどころか成り立たなくなってしまう状況です。

「この状況を放置しておくのはマズい」ということで東京都は「地域金融機関による事業承継促進事業」なるものを開始しました。

 

 

事業の目的

「地域金融機関による事業承継促進事業」は、地域金融機関が事業承継に係る啓発から計画の策定、資金供給までの支援を一気通貫でサポートします。そうすることで、地域経済において大きな役割を果たす中小企業が保有する技術や人材の次世代への引継ぎを促進することを目的としています。

 

事業承継問題

東京都の中小企業数(法人+個人事業主)の数は

2009年:487,729社

2016年:413,408社

となっており、74,321社が減少しています。

平成31年度版中小企業白書付属統計資料より

 

事業承継とは、「現経営者から後継者へ事業のバトンタッチ」を行うことで、企業がこれまで培ってきた様々な財産(人・物・金・知的財産など)を上手に引継ぎ、承継後の経営を安定させるために重要な行為となります。

しかし依然として事業承継が進まないのにはいくつか理由があると考えられています。

 

経営者側の事情

会社の先行きに不安があり、承継に消極的

いつかは必要だが「まだまだできる」と考えており、具体的行動には移していない(創業者に多いケース)

後継者は候補はいるが、まだ任せられない

金融機関に相談すると追加融資が断られるのではないかと心配

事業承継セミナーに行くと、事業存続について取引先等から懐疑的に思われてしまうか心配

後継者候補がいない

 

後継者側の事情

自分から言い出すのは遠慮があり心苦しい

他社に就職していて稼業には戻れない

 

構造的課題

相続税贈与税など税制負担

融資に対して個人保証や個人財産を担保設定している

 

上記以外にも企業によってさまざまな理由があると思います。

よく耳にする「人・物・金」を事業承継に当てはめると「後継者・設備や不動産・資金や自社株式」と考えられます。この部分についてはイメージが持ちやすいかと思います。確かにこの「人・物・金」の承継もとても大切です。

しかしこれらと同じくらい大切な経営資産も存在します。それは「経営理念・特許やノウハウ・熟練工の匠の技・社長の人脈・顧客情報」といった目に見えにくい資産(強み)です。この部分を専門家により「見えにくい資産」を「見える化」するのが本事業の目的の一つです。

 

 

支援イメージ

この事業運営のゴールは事業承継計画の策定とされています。

1企業最大で8回まで、中小企業診断士公認会計士などの専門家を派遣することができます。承継計画策定のなかで、販路拡大や販促支援等の事業承継以外のニーズが高まることも想定し、他の支援機関との連携も図っていきます。

 

支援イメージ

初回:ヒアリングシートをもとに経営全般に冠する課題のヒアリング

2回目:優先順位を決めて方向性を定める

3〜6回目:事業承継計画策定支援実施

7回目:代表者が策定した事業承継計画書の確認

8回目:事業承継計画書の最終決定

 

 

 

活用のメリット

1.会社の5年後、10年後が把握できる

2.将来を見据えた事業承継計画が完成することで、資金調達計画の時期を金融機関と共有できる

3.後継者との時間軸の共有ができる

4.取引先も安心させることができる

5.専門家支援を8回まで無料で受けられる

6.従業員やその家族の将来を一緒に考えることで、従業員満足どが高まる

 

 

事業承継は会社を存続させるためには必ず必要になります。そしてこの準備については、入念に準備していて損はないでしょう。

普段から顧問の税理士等に相談している事業者の方もセカンドオピニオンのような位置付けで、話を聞くだけも新たな発見があるかもしれません。

自身ではなかなか踏み出しきれなかったり、どこから手をつけていいかわからないという方は、この制度を活用してみてはいかがでしょうか。