先日『財務3表一体理解法』に関する記事を投稿させていただきました。読んでくださった方々は本当にありがとうございます。この財務3表シリーズは、『財務3表一体理解法』『財務3表図解分析法』『財務3表実践活用法』の3冊でひとつとなっています。
まだシリーズ1作目の『財務3表一体理解法』をお読みになっていない方は、こちらが参考になれば幸いです。
今回は第2作目となる『財務3表図解分析法』を読みましたので、何か皆様の参考になればと思い感想等を交えながら書いていきます。
なぜ読もうと思ったのか?
- 『財務3表一体理解法』が面白く勉強になったから
- 有名企業を題材にしていてイメージが掴みたかった。
- より踏み込んだ財務の勉強がしたかった。
前作『財務3表一体理解法』を読んでからより財務というものに興味を持つようになりました。その理由はなにより前作が面白く勉強になったからです。そのまま「もっと勉強したい」と興味を持つようになり本書を手に取りました。本書ではトヨタやソフトバンクといった超有名企業を事例に取り上げており、普段テレビCMのイメージだけではわからない、数字で捉えた実態の姿を学ぶことができました。「図解分析」ということもあり、脳内で決算数字を図解に変換しイメージすることが以前よりスムーズになった気がします。
この本を一言であらわすと?
「デジタルデータをアナログ変換しろ」
人間は数字の羅列であるデジタルデータより、データを図にしたアナログデータの方が、沢山の情報を瞬時に直感的に読み取ることができます。財務にしても財務分析指標(流動比率や固定長期適合率など)の計算式を文字列で羅列して書かれても、特に馴染みのない人は理解するのが大変ですが、図で見ることでその意味を瞬時に理解することができます。
『財務3表図解分析法』ポイント3つ!
- 「デュポン・モデル」をベースに考えろ
- キャッシュフロー分析から経営戦略を読み取れ
- 財務諸表の限界を知っておけ
1.「デュポン・モデル」をベースに考えろ
社長には、事業全体のプロセスを効率よく運営することが求められます。これを評価する指標がROEと言われるものです。事業全体の効率を表すROEの数値は、財務レバレッジと総資本回転率、当期純利益というそれぞれのフェーズの分析結果を掛け合わせることで決まります。
そのROEと関係しているのが「デュポン・モデル」です。デュポン・モデルとは1920年代にアメリカの化学会社DuPontが導入した業績管理手法の考え方です。ROEを算出するためのそれぞれのフェーズの数値を意識して見ていくことで、分析対象会社がどのフェーズをいかに効率よく経営しているかがわかります。
事業全体を「資産を取得するため資金を調達する」「資産を売上に変える」「売上を利益に変える」の3つのフェーズに分割します。
「資産を取得するために資金を調達する」とは資本金などの自己資本のほかに借入金などの他人資本をどのくらいの割合で使用しているかということを分析します。これは「財務レバレッジ」という指標で分析できます。
「資産を売上に変える」とは調達した資産をいかに効率よく使って売上を上げているかということで「総資本回転率」という指標で分析できます。
総資本回転率=売上高÷総資本です。
「売上を利益に変える」とは売上高をいかに効率よく利益に変えているかということで「当期純利益率」という指標で判断できます。
ROE、財務レバレッジ、総資本回転率、当期純利益率をチェックすることでザックリと会社の状態が分析できるのです。
ここまでのプロセスをPLとBSの図を用いて表すと、資本主義社会の仕組みが見えてきます。
①自己資本で事業を始めるのではなく、金融機関から借入等を行い資本を集めるとします。このように自己資本に対しどのくらいの割合で他人資本を使っているのかを表すのが財務レバレッジです。
②次に調達した資産を使って売り上げを上げます。この総資本と売上高の比が総資本回転率です。
最終的にはこの当期純利益がBSの利益剰余金に積み上がり株主の自己資本を増やしていくことになります。つまり資本主義社会とは、株主の資本金を元手に事業が始まり、他人の資本を使い事業を行い、その事業によって生み出された利益が株主の自己資本を増やしていくという構造なのです。
事業全体の効率を評価するROEは、「財務レバレッジ」「総資本回転率」「当期純利益率」の掛け算で算出できます。
ここまで説明してきた事業の3つのフェーズを見ていき分析対象会社がどのフェーズをいかに効率よく経営しているかを分析することが大切になります。各プロセスを評価する場合に一般的に総資本回転率と当期純利益率は高い方がいいとされますが、財務レバレッジだけは高いからいい、低いから悪いということではありません。財務レバレッジは良しあしではなく、事業経営の姿勢や方向性を表している指標なのです。
2.キャッシュフロー分析から経営戦略を読み取れ
キャッシュフロー計算書(CS)は毎年会社が何からキャッシュ(現金)を得て、それを何に使ったかが一目瞭然になる表です。CSを見れば会社がどんな状況にあるか、経営者が何を考えているかがわかります。
CSは現金の出入りを表す収支計算書です。それが「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」の3つに分かれています。従ってこれら3つの欄がそれぞれ、現金が増えてる場合は(+)と現金が減っている場合(-)に分かれます。この(+)と(-)の組み合わせは下記図のように8通りのパターンがあります。
下の図は三菱自動車の2016年3月期におけるCSの投資CFと財務CFの抜粋です。
表の上の方にある「有形固定資産の取得による支出」の欄を見てください。
前期:856億円、当期:690億円です。
当社は毎年600億円〜900億円程度の設備投資を行なっております。ただ当期は「有形固定資産の取得による支出」とほぼ同額の「有形固定資産の売却による収入」が640億円計上されており、投資CFの総額は例年に比べ少なくなっています。
財務CFに目を向けてみると、短期借入金や長期借入金の返済で多額の支出となっています。過去5年間のCSを見てもほぼ一貫して借入期の返済を続けています。その結果が下の図です。
三菱自動車は借入金を減らし、自己資本比率の高い財務的に安定した企業にすることが経営上の大きな方針であったことが分かります。
3.財務諸表の限界を知っておけ
私たち会計の素人が財務諸表から読み取れることには限界があります。例えば大企業の各事業部がどういう戦略で戦っているか、これから戦おうとしているのかはわかりません。
また対象企業の将来を予測することもできません。2000年代初頭のスバルとシャープの評価は、現在とは真逆でした。自動車業界一人負けのスバルに対し、電機業界トップクラスの営業利益率を誇る超優良企業のシャープでした。その状況が今では現時点では完全に逆転しています。しかしこれから両社がどうなっていくかは誰にもわかりません。
不正会計や粉飾を財務諸表から見抜くのも困難です。こういう場合は財務諸表になる前の、数字の認識や評価の前提によって行われます。例えば在庫や売掛金架空積み増しによる利益操作などは、在庫や売掛金が本当に存在するかどうかを確かめようとすると、実際の在庫や資料を確認したり売掛先企業に直接確認しなくてはなりません。
財務諸表とは「企業の全てがわか」わけではありません。そのような前提に立ったうえで財務諸表を見てみると、対象企業に関して知らなかった情報が想像以上に得られることもあるのです。「どのようなことで稼いでいるのか」「現在の財務状態は良好なのか」「経営者は何を考えて経営をしているのか」など企業に対して漠然と持っているイメージだけではわからない、企業経営に関する具体的な情報が財務諸表にから読み取れるのです。
感想
前回読んだ『財務3表一体理解法』に続き読んだ本作でしたが、実際の企業を多くモデルにしていることもあり、読み進めていくうちにその企業にたいするイメージが変わりました。
BSの形をよりビジュアル的に捉えやすくなっており、より財務を図で考えられるようになったと感じます。またCSについての説明も前作より多く盛り込まれており、前作ではなかなかイメージの難しかった部分についても理解を深めることができました。
引き続き3作目を読んでいる最中なので、読み終えたらこちらにまとめていきたいと思います。
内容
ベストセラー『財務3表一体分析法』の全面改訂版。
財務3表を図解したオリジナル図はそのままだが、
取り上げる会社を見直し、数字は最新決算に一新!
財務データの中でも、キャッシュフロー計算書の読み解き方が出色。
財務3表を図式化すれば、経営状態が手に取るようにわかる!ベストセラー『財務3表一体分析法』を全面改訂。貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)をオリジナル図にし、キャッシュフロー計算書(CS)から経営者の意思を読む。「期間比較」や「同業他社比較」など多角的な分析法を紹介、グローバル時代に合わせて超巨大多国籍企業も俎上に載せる。『増補改訂財務3表一体理解法』との併読がおすすめ。初読者も既読者も、そしてすべてのビジネスマン必読!
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著者紹介
國貞/克則
1961年岡山県生まれ。東北大学機械工学科卒業後、神戸製鋼所入社。海外プラント建設事業部、人事部、鉄鋼海外事業企画部、建設機械事業部などで業務に従事。1996年米国クレアモント大学ピーター・ドラッカー経営大学院でMBA取得。2001年ボナ・ヴィータコーポレーションを設立。日経ビジネススクールなどで公開セミナーやeラーニングの講座を担当している
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